今日はあたしの誕生日

思ったより涼しくて、車からストールを取り出す


定刻より早目だというのに、

待ち合わせの駅にはもう彼の黒い車が待ってる


ドア開けて乗り込むと

「おかえり」って優しい声。


発進した車

テールライトに照らされた雨粒がするする逃げてく


運転してる横顔

ハンドル握る手


助手席など何度も乗ったのに

今回は勝手が違う


旅行好きで、遠出へっちゃらなあたしと

出来れば自分のテリトリーから出たくない彼


やっとの思いで彼を連れ出して

5時間以上一緒に過ごすのだから


他愛ないおしゃべり

無邪気に繋ぐ手

周り気にせずお話するものドライブの特権




しばらくすると

木々の揺れる音が迎い入れてくれる

はっきりしないが、

きっと綺麗な緑がひろがってるんだろう


入ると個性的なオブジェをあしらった暖炉が目に入る

落ち着いた色で統一されたラウンジ


すでに浴衣で寛いでいる方々を横目に

遅くなってしまった夕食へ



こんなにゆっくり食べて飲んだのなんて

何年振りだろうかと

話足りなかった彼の独壇場

まぁ楽しいから良しとしよう



温泉も素晴らしくって

朝の光でも入ろうと起きる時間を計算しつつ、

面白そうな本棚に気を取られていたら

彼がもう眠るよと言いに来た


お仕事を早目に切り上げる為に頑張った疲れがきてるみたい

運転もしてくれたし一時退避

後からまた覗きに来よう…







お部屋に戻るとテーブルに

ケーキの箱と赤ワイン!


どうしたの?

誕生日。

食べたいって言ってたケーキ買っといた。

どうしよ うれしい ありがとう



夕食の時、ないの?って言おうとした喉を

ケーキで覆い、二人で飲んだワインは色を変えて頬を伝う







なんて時間だろうと思った


この日にこうやって傍にいる

手を伸ばせば触れれるところに

声の聞ける近さに

一緒にご飯食べて、眠って、朝風呂いって、本読んで、話して、また食べて


単なる生活がこの人とは特別になる。


なんて人なんだろうと思った


この人はこうやって、何人幸せにしてきたのだろう

あたしはとても出来そうにないのに。。







遅めのチェックアウト

空気と太陽と思い出を温泉に溶かして

忘れない様に軆に染み込ませながら









帰り道、眠ってしまった私は

彼の大きい手で目を覚ました。


目をこすると違和感に気づく





来年は、もうちょい近場にしよう


そう言って彼は、

あたしの小指を掴んで“それ”にキスをした