​過去の話 vol.2

〜旅館で働いていたときの出来事〜



話は3、4年前に遡る。


この日の夕方過ぎ、

急な買い出しを頼まれた私は


紺色の作務衣(仕事着)を着たまま

親の車へと乗り込んだ。

自分の車は少し離れた駐車場にとめていた為


辺りは暗くなり小雨がパラついていた。



近所のスーパーに着くと

急いで目的の品物を購入。


5分ほどで買い物を済ませ

足早に外へ出るとバッグの中から

車のスマートキーを取り出して

ボタンを押した。


ピピッ!


小さな電子音とともに

車のライトがチカッと光る。


小走りで車に向かうと…


運転席のドア付近に

1人の中年男性が

スマホで電話をしながら立っていた。


電話の相手は会社の上司なのか

取引先のお偉いさんなのか

何度も深々と頭を下げながら話しをしている。



大変そうだね!サラリーマン!


それにしたって

なんて邪魔なところで電話をしてるのよ真顔


私は

“ちょっとどいてください”

の意味合いも込めて


「すみません」


と、小声で言った。


男性は電話をしたまま

1歩だけ後ろに下がった。



え!たった1歩?


うそん不安


……邪魔チーン



私はしぶしぶ

強引に体を押しつけるようにして

男性をどかせ、

ドアを開けると

さっと車の中に乗り込んだ。



買い物袋を助手席に置く。


「ふー」


と一呼吸。



…と、

間を置かないくらいのタイミングで


運転席のドアをトントンと

軽く2回ノックされた。


驚いてパッと顔を向けると


先程のリーマン男性



けれど彼はまだ電話の最中で

私の方を見ていない。




んん?真顔


なんだ?


なにか落としたかな?



不思議に思い、

歩いてきた道に目をやったが

物が落ちている様子はない。


なんだろう?


一応助手席に置いた

買い物袋の中身も確認した。


購入した品物は全て入っていた。



もう何!?

あたし今忙しいんですけど?


もしや知り合いか?


そう思ってじっくりと男性の顔を確認するも


全く見覚えがない。



てことは…


ナナ…ナンパ!?


いや、あたしこれでも

一応結婚してるし!


もういいオバサンよ〜真顔


ってな事を思いつつ…



まあ意味がわからない。




ノックはすれども

した本人は電話をしたまま放置プレーって


それってどうなのよ?


……。



もういいや!



私は考えるのをやめてエンジンをかけた。



すると!

さっきとは打って変わって


激しく

ドンドンドンッ!


と再び運転席をノックされたのである。




その、


ドンドンドンッ!


…で。


突然ね、

ふわ〜っと視界が開けてきた。


まるで夢から覚めた…

いや、催眠術から解けたかのように。


急に脳が覚醒した感じに…




…ん?真顔



あれ?


親の車…


内装こんなだったっけか?


もっと雑然としてなかったっけ?


車の香りもなんだかセレブチック?



んん?



運転席…



なんか…違くね?





……ゲッソリゲッソリゲッソリゲッソリゲッソリ




その瞬間

血の気が引いていくのがわかった。




と同時に


ゲロ吐きそうになった。




これ、

親の車じゃなーーーーいゲローグハッ



咄嗟に荷物を持って車から降りる。



リーマン男性は


私に車を盗まれるかもしれないという

窮地なのにもかかわらず


なんとまだ電話中!滝汗


よっぽど重要な電話だったのだろう。



「すみません!

間違えました!!

本当にすみませんえーん



私は電話中のサラリーマンに

これでもか!ってくらいに

何度も頭を下げた。



彼はチラリとこちらに目をやると

こくりと頷いた。



それを合図とばかりに


私はその場から


中腰のまま


猛烈な速さで


ササササーっ!と


華麗に立ち去った。



それはもう

クノイチさながらの瞬足で。

紺色作務衣も忍者度up


忍法隠れ身の術!


忍法瞬間移動の術!


忍法っっ…!



もうなんでもいいから

なんか出てこ〜い!!ゲロー


ハットリくーーーーん!!!



ナンパ…


ナンパかと一瞬思ったよねあたし。


こんなアラフォー女に

誰がナンパなんてするよ?チーン


クノイチみたいな格好しているし。


変なおじさん!って思ったけど

変なのはあたしだった。


よっぽど変なオバサンだよ!


とんでもねぇ不審者だよ!!



もう、いやぁああぁ!!



穴があったら入りたーーい!!



助けてぇぇえぇ!!ゲローゲローゲロー



ドラえもーーーーーん!!



脳内が二次元世界に

迷い込むくらい気が動転。



心臓は口から飛び出てきそうなほど

バクバクと脈打っていた。



そして今度こそ

本物の親の車に乗り込むと

私は震える手でハンドルを握った。



今あった出来事を振り返る。


落ち着け!


落ち着け!あたし!!


なぜこんなことが起きたのだ!?


何故だぁぁあ!!!



…!!∑(°Д°;)



あれだぁあ!



あの時だ!!



スマートキーのボタンを押したタイミングで

ピピッと鳴って一瞬ヘッドライトが光った


あの瞬間だ!


一種の刷り込み現象

私に起きたのだ。


おそらく奇跡的に

私と全く同じタイミングで

あの男性もスマートキーのボタンを

押したのだろう。



とんでもない確率で

とんでもない奇跡のシンクロが起きた。


その結果…

私は吸い込まれるようにして

あの車に向かってしまったんだぁあぁ!



ある意味、

とんでもねぇ忍術に惑わされた

とも言える。



一体なんの使い手だよ。


恐ろしい…。


もうあのサラリーマンが恐ろしい!!滝汗

あっちこそよっぽど恐ろしかったと思うが



エクスペクトパトローナム!!

もう忍術やら魔法が渋滞中



自分がとめた車は

全然違う場所だったのに!



なんなら

車種も車体の色も

全然違かったチーン



せめて車種やカラーは

同じであれよ!!えーん



もしもあのサラリーマンや

警察官に問い詰められたとして


「違うんです!

車を間違えたんです!」


と私が正直に必死で訴えたとしても


戯言だと思われて

信じてもらえないんじゃないだろうか。


車種も車体カラーも全然違うし


ありえない!

そんな嘘がまかり通るか!


とかなんとか言われてさ…えーん


きっとこういうのが重なって

冤罪っておきるんだぁあえーん


あ、、、


私…実際、車に乗り込んでしまってるチーン



これって...


不法侵入罪!?不安


いや…でもほら、


彼ったら一歩下がって


私が車に入りやすいように(?)

どうぞしてくれたよ?


だから不法侵入ではないよね?不安


ね!?



怖い!!


ごめんなさい。


もうほんとにごめんなさい!



私はしばらくパニクり続け、

声に出して謝りながら


帰路についた。




意図せずに

車の窃盗犯になるところだった


そんな


怖い過去の思い出話。