大人の絵本用のストーリーを創作しています。これまでで一番反響の大きかった作品を、投稿してみます。

リズム(七五調)をお楽しみください。
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風のゆらめく夜8時 かあさんざるが予言する


「おまえはおやすみ あの風はおまえを喰ってしまうだろう」


喰われてしまうのこわいから こざるはこっそり目をあけて


月をながめて息を吐く 喰われるならば逃げたいが


かあさんざるがいるならば ここにとどまるべきかしら


風はたちまちおどりだし 月をのみこむごっくんと


あたり一面くらやみのなかで おびえるこざるのめ


風が近づきささやいた 「おまえを喰ってやろうかね」


こざるはふるえ叫びだす 「かあさんたすけて喰われちゃう」


かあさんざるはもういない こざるのことなど考えず


わが身かわいさははざるは 一目散に逃げ出した


風はこざるの顔の前 風のことばがこだまする


「わからないのかははざるは とうにおまえを見放した」


風はたちまちのみこんだ こざるをすっかりのみこんだ


こざるは風の中にいる 風の中にはあの月と


あの海 あの石 あの上着


すべては風の中にある それがこの世の定めらしい


こざるは月につかまった 月は三日月つるつると滑りやすくて


転がったこざるがしりもちついたのは あの海の上 


水しぶきあげてとびだすこざるには あの石ぶつかり目がまわる


こざるが手にしたあの上着 かあさんざるのあの上着


こざるは手で裂く足で裂く歯で裂く上着を 悪態をついてこざるは裂きまくる


「かあさんざるはははでない わたしはははなど信じない」


風はすこぶるご機嫌で 東に西にかけ回る


風の中では不機嫌なこざるが 南北はね回る


もしもあなたがこの夜に 空を見上げてみたならば


浮かんでいるか赤い星 


それはこざるが引き裂いた あの上着から散らばった


糸のくずかもしれないよ