3年生になると、急に受験や就職の準備で慌しくなった。

 また同じ就職クラスになった俊介と洋平に、義は「なぜ、就職を選んだのか?」と訊いたことがあった。

「家計を助けるため。早く家族を養わないと」

 と当たり前のように答えたのは洋平で、

「勉強は好きだけど、進学する資金考えるとそこまではって気もするし。ま、その気になったら大検でも受けるし」

 と笑いながら言ったのは俊介だった。

「俺、自分のためだなぁ……」

 やいたいことのために就職を選んだ義がつぶやくと、2人は笑った。

「それが1番いいじゃん」

「頑張れよっ」

 ばしばしと背中や腕を叩かれながら、義も笑う。


 ――やるべきことがあるときは、時間が経つのが早い。

 必死に就職のための面接や、その間に学校の試験を受けている間に、季節が流れた。

「就職内定おめでとー!」

 駅近くのファミリーレストランに集まった義と俊介と洋平は、ドリンクバーのグラスを鳴らした。

「っはぁっ!美味いなっ」

 一気に烏龍茶を飲み干し、笑顔で言った俊介に、洋平が呆れたように笑う。

「酒かよ」

「いいじゃんか。マジでめでたいしなっ」

「ま、これで一安心だよな。義はもうバイトしてんだろ?」

「ん。この近く」

「へえ、あとで行ってみよっかなぁ」

「いいよ。ヤマが好きそうなアクセもあるし」

 洋平と義が話していると、俊介が口を尖らせた。

「俺も行きたい」

「お前、あんま、興味ないだろ」

「そんなことないって。もうすぐ社会人だもーん」

「しょうがねぇな。シュンも連れてってやるかぁ」

 洋平の言葉に、俊介は吹き出した。

「何でヤマが偉そうなんだよ?」

 洋平はにやりと笑ってみせた。

 3人はいつものように軽口を叩き、食事をする。

 ――食事が終わっても、まだ家に帰る気にならず、カラオケへと向かう。

 途中、そちらの方が近道だからと公園に入った。

 人影は無く、噴水ももう止まっている。

「……卒業しても、また遊べるようなぁ?」

 少しだけしんみりした声で、洋平がつぶやいた。

「そんなん当たり前じゃん。家、近いし」

 きょとんとした顔で俊介が言うと、洋平は大袈裟にため息をついてみせた。

「そういう問題じゃねえの!もう、シュンにはガッカリだわぁ」

「何でだよ!」

「もう、マジで嫌だー。繊細さがないっ」

「何で?俺だって繊細だって!」

「どこが!?繊細ってんは、俺とか義だろ!お前、体鍛え過ぎて頭ん中まで筋肉んなってきたんじゃね?」

「なってねえよ!」

 怒鳴った俊介は、膨れっ面のまま、噴水の側を歩く。

 その様子を見た洋平は、義に目配せをした。

 それに気付いた義は、にやっと笑う。

 2人は俊介の両脇へと駆け寄った。

「ん?」

 怪訝そうに顔を向けた俊介の両脇を抱え、2人は思い切り、噴水の中へと投げ込んだ。

 派手な水音と俊介の叫び声が上がり、義と洋平は声を立てて笑った。

「おっ前らあぁぁぁっ!」

「あははははっ!格好良いって俊介くんっ」

「水も滴る良い男だなっ」

「水も滴る良いゴリラ」

「ふざけんな!ったく、最悪だぁ」

 顔をしかめて噴水から上がろうとする俊介に、にやにやしながら洋平が手を差し出した。

 その手を掴んだ俊介は、にやりと口の端を上げた。

「あっ!?

「お前も道連れだっ!」

「あーっ!」

 洋平の叫び声とともに、もう1度、派手に水音が上がった。

「あははっ、同じだなっ」

「バッカ、お前――これ、昨日買ったばっかだし!最悪!」

「先にやったの、そっちだろ!」

「あー、もう、ったく」

 洋平は文句を言いながら、噴水から上がった。

 俊介も笑いながら出ると、周りを見回した。

「――何で、メグ、離れてんの?」

 義の姿が離れた場所にあることに気付き、俊介は膨れっ面になった。

「落とされんの、嫌だし」

 義がしれっと言うと、俊介と洋平はすばやく駆け寄った。

 やばい、という表情で逃げようとした義を捕まえ、そのまま、2人は両側からぎゅうっと抱きついた。

「ちょっ、やめっ!濡れんだろがっ!」

「お前だけ許されるわけあるか!」

「寒いかぁら、温めてーっ」

「だぁーっ!うざっ!」

 大騒ぎする3人を、ちょうど通り掛ったカップルが顔をしかめて横目で見た。

 ――文句を言いながら見上げた空には、満月が輝いていた。