腕の包帯が取れた義は、右手を開いたり閉じたりを、つい、繰り返していた。

 手の甲や腕にうっすらと跡が残ってしまったが、問題は無い。

 今考えると、手首の神経が傷付かなくて幸いだった。

 趣味で続けているギターが弾けなくなっていたらと、今更ながらゾッとした。

「メグー、飯はぁ?」

 昼休みになると、俊介が伸びをしながら訊いた。

「んー、パン買いに行く」

「あ、なら、食堂行かね?」

「おぅ、行く。ヤマは?」

「彼女と弁当」

 そう言いながら、俊介は財布を手にし、義を促した。

「彼女とかぁ。いいな」

「な?ま、たまには邪魔しないでやろうって思ってさ」

 食堂に向かいながら、2人は会話を交わした。

 

 食堂に着くと、それぞれ好きなものを注文し、座れる場所を探す。

「あー、シュン先ぱーい!」

 側で声が上がり、振り返った俊介が笑顔になった。

「おー。そこ、空いてんの?」

「空いてますよぉ。どうぞどうぞ」

 オーバーに手で示された俊介と義は、同じテーブルで空いていた向かいの椅子に座った。

「こいつ、委員会で一緒の1年の富山雅夫」

「初めましてぇ。いつも先輩にはお世話になってます」

「……ども」

「変だけど、悪いやつじゃないから」

「ひどい言い方だなぁ」

 雅夫はそう言いながらも笑顔だった。

 制服を規定通りに身に着け、ネクタイまできちんと締めているところから、真面目な性格が見て取れた。

「あ、いた。もう、探しただろー。腹減った」

 頭上で声がすると、雅夫の隣りに1年生が座った。

「あ、シュン先輩だ。今日は学食なんですか?」

「おー」

「何食べてんですか?また、うどん?好きですねー」

「ほっとけ」

 俊介は苦笑すると、義を見て目の前の2人を親指で示した。

「これが1年の百瀬仁(しのぶ)」

「『これ』って言い方ないでしょー」

「悪い悪い。こっちは六平義。同じクラス」

 笑いながら俊介が紹介すると、2人の表情が固まった。

 怪訝そうに俊介が首を傾げる。

「どした?」

「六平さんって――あの?」

「『あの』?何が?」

「えー……」

「言え」

 俊介に凄まれ、雅夫は仁に助けを求める視線を投げた。

 2人は困った様子で顔を見合わせると、小さくため息をついた。

「ええと、噂ですよ?俺らも聞いただけだし」

 言い辛そうに雅夫が口を開いた。

「いいから、さっさと言えって」

「そのぉ、2年にすっげー怖い先輩がいるって。3年と喧嘩して病院送りにしたとか、10人いっぺんに相手して傷1つ無いとか、女は手当たり次第とか、目を合わせただけで因縁つけられるって」

「……それが、義だって?」

 俊介が訊き返すと、雅夫は小さくうなずいた。

「だって、名前が同じだし。珍しい名前だから、そういるわけでもないでしょ?」

 義は唖然とした表情で、カレーに手をつけようとした姿勢のまま固まった。

「しかもですよ?鬼のようにごつい奴と、金髪ヤンキーの舎弟もいるって」

「ぶっ――!メグ、クラスの奴と話すのも苦手なのに手当たり次第?友達も少ないのに舎弟ってなぁ?」

 思わず吹き出した俊介に、義は呆れた顔を向けた。

「や、多分、舎弟ってお前とヤマのことだって」

「え?あ?あぁっ!?ホントだな!」

 俊介は大声を上げると、おかしそうに笑い出した。

「いやいや、喧嘩言っても、怪我して病院送りにされたの、メグの方だし!すごいことになってるなぁ」

「……ウケ過ぎ」

 義は憮然とした様子で、やっとカレーをすくった。