「あ、じゃ、私、入ってくるね」
希はタオルとパジャマを持ち、風呂場へと向かった。
夕食前に浩司は入ってしまい、さっき、清加も入って来た。全員が出たら、落ち着いてDVDでも観ようという話になっている。とりあえず、リビングに4人で集まり、適当にくつろいでいた。
携帯電話が鳴り、美奈があわてて出た。幸せそうな笑顔になると、
「ちょっとごめんね」
と一言謝り、リビングを出た。表情から察するに、彼氏である沢口宗一からだろうと清加と浩司は顔を見合わせた。
2人だけになると、急にテレビの音が大きく感じるようになった。
清加は、テレビを見る浩司の横顔を盗み見た。
振られたとはいえ、浩司に彼女がいないことがわかっていると、ときどき、未練が顔を覗かせる。もちろん、B-Mの五木忠信のことはずっとファンだし、覚えていないとはいえキスも1度している。「付き合おう」というはっきりした意思表示はされていないが、見ようによっては付き合っていると言えなくもない。その上、忠信は清加が「男性が怖い」という事実も知っている。
それでも、浩司のことが気になってしまうのだ。
浩司の方も少し気まずさがあるのか、こうして2人きりになることを避けている気がした。
そんなに気にしなくていいのに。
清加がそう思ったとき、急に浩司が振り向いた。
はっとした清加は、手元にあったグラスを倒した。
「や――!すいませんっ!」
「大丈夫?」
「どうしましょう。ティッシュ?布巾?」
「ちょっと待って」
2人はあわてて立ち上がろうとした。
「――っと!」
「きゃ――」
浩司の足がテーブルに引っ掛かりよろけた。つい反射的に支えようとした清加も巻き添えを食う。
そのまま、2人は一緒に床に転がった。
浩司の体が触れ、清加の表情が引きつり、体がこわばった。
「悪いっ」
浩司はそう言うと、急いで体を起こそうとした。
しかし、途中で動きが止まる。
清加は不思議に思い、浩司を見上げた。中学の頃から側にいたが、ここまで接近したのは初めてのことだった。
ほんの短い時間だったが、清加にはとても長く感じた。
浩司は起き上がることなく、ゆっくりと清加の上に覆い被さってきた。
「こ、浩司さん!?」
清加が引きつった声を上げたが、返事がない。更に体重が圧し掛かり、清加はパニックになった。
「何?すごい音がしたけど」
声とともにドアが開き、美奈が入ってきた。倒れている2人を見て、目を丸くする。
「お兄ちゃんっ!?」
美奈は叫ぶと、浩司の肩をつかんだ。そのまま、ごろりと横に転がした。
「何なの?どうしたの?大丈夫?」
美奈は清加を抱き起こすと、あわてて訊いた。清加は硬い表情のまま、何とかうなずく。
「お兄ちゃん、ふざけるのもいい加減にしてよね!」
怒った口調で美奈が言った。しかし、浩司からの返事がない。
「……お兄ちゃん?」
訝しげに美奈が顔を覗きこんだ。
浩司は苦しそうに目を閉じ、肩で息をしていた。
「ウソ、やだ、お兄ちゃんってば」
浩司の様子に戸惑った美奈の顔を青くなった。清加は何度か深呼吸をした。
「美奈ちゃん、お風呂ありがと――ってどうしたの?」
風呂から上がった希が、タオルで髪を拭きながらきょとんとした顔で訊いた。
「何か、お兄ちゃんが倒れて」
「ええっ!?」
3人は心配そうに浩司を覗き込んだ。
「どうしよう」
「救急車呼ぶ?」
「何か、熱あるみたい」
「あ、本当だ」
3人は顔を見合わせた。
浩司が目を覚ますと、自分のベッドの上だった。額には冷却シートが貼ってある。
不思議に思いながら上体を起こした浩司は、部屋の中で3人が寝ていることに気付いた。
「――何だ?」
浩司がつぶやくと、美奈が目を覚ました。
「あ、気付いた?」
「あ?ああ、何?」
「倒れちゃって大変だったんだからね」
美奈は唇を尖らせた。
「様子見よってことで部屋まで運んだけど、大変だったんだから。心配かけさせないでよね」
「……それは、ごめん」
怒った口調とはいえ、美奈が本気で心配していたということが伝わり、浩司は珍しく素直に謝った。
「とりあえず、病院に行ってね。あーあ、お兄ちゃんのせいでテスト勉強出来なかったな」
大きく息を吐くと、美奈が言った。
そうでなくてもしないくせに。
浩司はそう思ったが、今日は口にしないでおくことにした。
※
070721初稿。
ベタな少女漫画風が書きたくて、こんな感じにしたみたいです(笑)