食事を終え、2人は一旦、園外へと出た。近くにあるショッピングモールを見て回る。

「あ、これ好きかも」

 万沙子は、シルバーアクセサリーを扱う店で足を止めた。

「うーん、薬指にしか入らないか」

 万沙子は右手にリングを嵌め、苦笑した。

「……買ってやろうか?」

 仁は、それとなく値段を確認するとつぶやいた。万沙子は目を丸くして顔を上げ、あわてて首を横に振った。

「そんな、いいです」

「気に入ったんじゃないの?」

「でも、自分で買うし――」

「土産ってことで」

 仁は万沙子の手からリングを取ると、レジに持って行った。小さな袋に入れられたリングを万沙子に渡す。

「ありがとう」

 万沙子は顔を赤くして、礼を言った。

 仁は何を意地になったのか、自分でもわからなかった。買ってあげたかったのだから仕方がない。

 夜のパレードに合わせて、2人は遊園地へと戻った。

 大勢の人が見やすい場所へと移動を始め、ごった返している。パレードを見るにしろアトラクションに乗るにしろ、この人波を越えないことにはどうしようもない。

「きゃ――!」

 後ろで万沙子が声を上げた。

 大きな荷物を持った親子連れと、2人だけの世界に浸っている恋人同士に押され、よろけたようだった。そのまま、人波に飲まれそうになっていた。

 仁はあわてて万沙子の手首を掴んだ。細い骨の感触と冷やりとした体温が手の平に伝わる。

 2人はそのまま、1番近くのアトラクションの入り口へと移動した。

「……すいません」

 苦笑して礼を言う万沙子に、仁は笑顔を返しながら不自然にならないよう、手を離した。

「いえいえ」

 一旦離してしまえば、もう掴むことは出来ない。仁は、そんなことに頭を悩ませている自分がおかしかった。


 閉園まで目一杯遊んだあと、仁と万沙子は電車に乗った。2人の家の間の駅で降り、夕食代わりに目に付いた居酒屋へと入った。平日とはいえ、そこそこの客の入りで、カウンター席へと通された。

 まず、ビールを頼むと、何となく乾杯をする。

「久しぶりで疲れたけど、楽しかった」

 万沙子は上気した顔で言った。仁も笑顔でうなずく。

「遊園地って、意外と体力使うよな」

「ね」

「明日、起きれないかも」

 午前中の仕事があることを思い出し、仁はつぶやいた。万沙子は笑いながらメニューを差し出した。

「とりあえず、今は美味しいものを食べよう?」

 ――しばらくして顔を赤くした万沙子が、あ、と声を上げ、バッグから仁が買ったリングを取り出した。

「せっかく頂いたんで」

 万沙子はそうつぶやくと、右手の薬指にリングを嵌めた。

「ありがとう」

 改まって、万沙子が礼を言った。仁も軽く頭を下げた。

「どういたしまして」

 2人はそのまま話を続け、終電に間に合ううちに別れた。

 駅で別のホームに向かうため、万沙子は仁に手を振った。

 仁は手を振り返しながら、右手のリングを見つめていた。




070613初稿。


短いのに、ものすごく時間が掛かっています(汗)

年長組の恋愛は、少し複雑な感じで書ければな、と。

もちろん、幸せにはしてあげたいと思っています。