「――もうすぐ発売ですね。今回のシングルは、3曲入りということですが、どんな感じなんですか?」
深夜の音楽番組の1コーナーで、Halcionの2人は新曲について、インタビューを受けていた。最近、雑誌で見掛ける新人グラビアアイドルが楽屋に直撃という形でいろいろと聞き出すコーナーだ。
「恋とか、男女の愛じゃなくて、家族とか、こう、大きな愛情っていう感じの曲です」
千川将成が言うと、相手は大袈裟にうなずき、感心した様子を見せた。
リハーサルの方がまだ、自然だったのに。
将成は頭の片隅で、そんなことを思う。
新曲を出すと、プロモーションを兼ねて、メディアへの露出が増える。それはもちろんありがたいのだが、同じ質問と答えばかりが繰り返され、ときどき、うんざりしてしまう。
ただ、音楽やっているだけじゃ駄目だってことは、よくわかってるけどさ。
将成はカメラに向かって笑顔を作りながら、心の中でつぶやいた。
「……腹減った」
収録が終わり、一通り挨拶を済ませると、瀬名友晴がつぶやいた。
「どこかで食べてく?」
マネージャーの南冴子が訊くと、友晴は首を横に振った。
「まだ、時間早いし。お母さんが、今日はカレーだって言ってたし」
友晴の言葉に、将成は思わず笑ってしまう。
「千川くんもウチで夕飯食べる?お母さんが『また呼びなさい』って言ってるんだよね」
「ああ、じゃあ、お邪魔しようかな」
将成が答えると、友晴は嬉しそうな表情を見せた。
「じゃ、瀬名くんの家まで送ればいいわね?」
冴子の言葉に、2人はうなずいた。
友晴の家で夕食をご馳走になり、将成は1人、マンションへと向かう。
友晴の両親は、将成のことを我が子のように可愛がってくれている。ありがたいことだ、と将成は思った。
電車に乗ればすぐのところを、たまには歩こうとのんびりと足を進める。
大勢の人とすれ違うのに、将成のことを知る人間はいないらしい。
声を掛けられ続けると面倒臭さを感じるのに、全く気付かれないのも、それはそれで悔しい。
楽しそうに居酒屋に入っていく人たちを見掛け、将成も少し飲みたい気分になった。
アルコールがないと生きていけない、というわけではないが、飲むことは好きだった。
友晴が20歳になったので、お祝いで2人で飲みに行ったこともある。とはいえ、友晴がアルコールに弱く、その上、喉のことを考えればあまり飲まない方がいいため、それっきりだが。
こうして1人で歩いていると、考えるのは結局、音楽のことだった。
どれだけ作っても、どれだけ演奏しても、まだ物足りない。
嫌なことをやらなくてはいけない。面倒なことから逃げられない。そんな毎日だが、好きなことを続けるには割り切ることも必要だった。
本当に好きなことだけやって生きていくには、あとどれくらいの月日と実力が必要になるのか?
将成はふと、空を見上げた。
星が見えないのは天気のせいなのか、この街のせいなのか。
雑誌の取材のため事務所に寄ると、この日は先に友晴が来ていた。
「この前、お母さんがすごい喜んでた」
会うと同時に、友晴が言った。
「マジで?それなら良かった」
将成は笑顔で答えると、上着を椅子の背に掛け、座った。
「ウチ、皆、千川くんのファンだからさぁ」
友晴がおかしそうに言った。
今日の取材は、ここから車で向かう予定だ。公園での撮影という話を聞いているが、まだ寒いのではないか、と心配しても仕方ないことを将成は考えた。
公園に着くと、適当に歩かされたり、フリスビーをやらされたりする。天気はいいため、出来上がった写真はきっと楽しそうに写っているはずだ。
ときどき何の撮影か気になるらしく足を止める人や、Halcionと気付いて手を振る人がいる。
将成と友晴も、笑顔で手を振り返した。
自分は相手のことを全く知らないのに、向こうは知っているというのは不思議な気分だ。
「……俺さぁ」
友晴がぽつりとつぶやいた。
「頑張らなきゃって、最近、ものすごく思うんだよね」
将成はちらりと友晴の表情を伺った。手を振ってくれた人に視線をやる友晴の横顔は真剣で、将成は自分の表情も引き締まるのがわかった。
「俺も頑張る」
将成が言うと、友晴が顔を向けてにっと笑った。
いろいろ考えていても、やるしかないなら前に進むしかない。
将成は深呼吸をした。
真っ青な空に、一筋の飛行機雲が見えた。
※
070216初稿。この頃、頻繁に書いてたみたいです(笑)
自分自身、悩んでた時期みたいで。前回のメグミも、今回のショウ(将成)も、私の実体験や思っていることを少し入れつつ、って感じですね。
それはそうと、メモ帳で打った文章、アップされたの見ると、行間が詰まってますね(汗)
今回は、ブログの本文のところに、直で打ってるんですけど。どちらが読み易いかしらん?私はこっちの方が。
とはいえ、行間空ける方法がわからない機械音痴なので、どうにもならないんですけど(ぉぃ)