3年に進級したばかりだというのに、進路志望用紙を提出することになり、九谷美奈は迷っていた。
 2年までに提出していたものと違い、具体的な学校名を記入しなくてはならない。
「美奈ちゃんは文学部でしょ?地元の?」
 佐田清加に言われ、美奈はうなずいた。
 放課後。マクドナルドに集まり、適当な話で談笑するはずが、いつの間にか進路の話になっていた。
「どうしたの?」
 追加注文に行っていた今中希と三重正孝が戻ってきて、席に着いた。
 美奈は、進路用紙を持ち上げ、ひらひらとさせる。
「ああ、提出日、いつだっけ?」
「明後日」
「もう、書いたの?」
 希の質問に、美奈は首を振った。
「まだ。細かく学校まで、決めてないんだよね」
「そっか」
 いつもの癖で首を傾げ、希が答えた。
 清加はアイスティーをストローでかき混ぜながら、3人を見る。
「美奈ちゃんは短大でしょ?2人はどうするの?」
「私は大学。演劇科のあるところに決めてるんだけど。えっと、三重くんも大学だよね?」
「ん。音大」
「同じ大学?」
「違う違う」
 3人の会話を聞いていた美奈は、ため息をついた。
「清加も決めてるんでしょ?」
「まあね。一応、服飾系の短大かな」
 清加の答えに、希が驚いた様子で訊き返した。
「え、音楽やらないの?」
「うん。音楽は好きだけど、一生の仕事っていう感じじゃないから。私、スタイリストになりたいんだ」
 清加は笑顔で、はっきりと自分の夢を語った。
 相槌を打ちながら、美奈は複雑な気分になった。
 今まで一緒の時間を過ごしていたはずなのに、全く違う夢を持って、それぞれの道を進もうとしている。
 自分が迷っている間に、皆がどんどん先に行ってしまうような気がしていた。
 実は美奈は、出版社に就職したいと思うようになっていた。
 しかし、大手出版社になると、4年制のある程度のレベルの大学を出ていないと難しいらしい。
 そんなにすごいところじゃなくても、芸能誌出せるところならいいんだけど。
 美奈は、そう考えた。
 いつかNAKIDSがデビューして、自分が記事を書けたら、と思い、美奈はつい、頬を緩めた。
 
“そっか。地元の大学だったら会い易いし――って、俺の勝手だけど”
 携帯電話の向こうで、沢口宗一が笑った。美奈も嬉しさから、小さく笑う。
 美奈も、宗一と会う時間は出来るだけ作りたい。
 携帯電話も使い過ぎると親に怒られるとわかっているのだが、大学生になった宗一は何かと忙しいらしく、このところ、会えていなかった。
 メールをすれば声を聞きたくなるし、声を聞けば会いたくなってしまう。
 私って、何て欲張りなんだろう。
 美奈はそう思い、宗一に聞こえないようにため息をついた。
「大学は慣れました?」
“うーん、まだ、かなぁ。でも、何となくはわかってきたかな?食堂で何が美味しいか、とか”
 宗一の答えに、美奈は笑った。
 宗一は大学で、教育学部に通っている。社会科の教員免許を取るためだ。
 兄の浩司は音楽の専門学校に通い、作曲の勉強を始めている。
 加山英之はコンピューターの専門学校で、プログラミングの勉強をしている。
 3人とも徐々に学校に慣れてきているようだが、まだ、ライブをする余裕はないようだった。
“美奈は、今度の土曜か日曜、暇?”
「はい。別に予定はないですけど」
“このところ、全然、会ってないからさ。何処か、行こうか?”
 宗一の申し出に、美奈は思わず姿勢を正した。
「はい!」
 美奈が元気よく返事をすると、一瞬の間のあと、宗一の笑い声が聞こえた。
 
「――よし」
 美奈は、シャープペンを置いた。
 机の上には、進路志望用紙。きちんと大学名も記入してある。
「迷ってたって、やるしかないもんね」
 そうつぶやくと、美奈は大きく伸びをした。
 そのまま、ベッドへと寝転がる。
「明日、忘れずに提出しなくちゃ……」
 美奈はそう言うと、目を閉じた。
 ――数分後、ドアがノックされ、浩司が顔を出した。
「悪いけどさ、空のMD――って、寝てんのか?」
 浩司は、美奈の顔を覗き込むとつぶやいた。
 美奈は気付かずに、寝息を立てている。
「……ったく、仕方ないか」
 小さくため息をつくと、浩司は開いたままになっているカーテンに手を伸ばした。
 閉めようとして、ふと手を止め、空に目をやる。
 少しだけ端の欠けた月が、白く輝いていた。
 浩司はそれを見つめながら、カーテンを引いた。
 頑張れ、と心の中でつぶやくと、浩司は部屋から出て行った。
 
 



初稿を書いたのは、07年2月。V6の「HONEY BEAT」が発売になったところで、ちょうど、応援歌だし、響きも可愛いし、とサブタイトル名に(笑)