日曜日だというのに、早めに起き、いろいろと準備をしていた昂次は、台所を覗くと笑った。

「うっわ、重箱やん!すごい量やな」

 その言葉に、少々、眠そうな顔の睦亮と章五がガッツポーズを取ってみせる。

「もう、めっちゃ頑張ったぁ」

「かなり自信あんで?」

「すごいなぁ」

 素直に感心している昂次に、ペットボトルと紙コップを用意していた光信が得意そうな笑顔を見せる。

「飯は完璧やで!そっちは?」

「こっちも完璧や。ビデオもデジカメもOK」

「場所取りは大丈夫なん?」

 睦亮が心配そうに言うと、昂次と光信がにっと口の端を上げた。

「あの3人に任せておけば、大丈夫やろ」

「せやなぁ。上手いことやってんで、多分」

 裕一と忠成は先に保育園に向かい、今頃は応援するための場所を取っている。

 その後、博也を送っていった隆志も合流しているはずだ。

「さて!俺らも行くか!」

 朝食用のおにぎりを包み終えた光信が、元気に言った。


晴天の中、園庭は可愛らしく飾り付けられていた。

運動会特有の音楽が流れ、歓声と応援の声が響き、ビデオカメラとデジタルカメラが園児たちを収めている。

石灰で描かれたトラックの周りを、色とりどりのシートが囲んでいた。

――昼食の時間になると、それぞれ、持って来た弁当を広げ始めた。

午前の出し物を終えた博也も、楽しそうな様子で走って来た。

昂次がおしぼりを渡すと、博也は真面目な顔できちんと手を拭く。

「弁当出すかぁ」

「おん」

「おー、気合い入れたなぁ!」

 大量のおにぎりと、重箱とタッパーを見た裕一が言った。

「ものすごーく、時間掛かったで」

 力を込めて睦亮が言うと、裕一は笑って、睦亮の頭を乱暴に撫でる。

「すごいすごーいっ」

 忠成がうれしそうに言うと、光信が重箱の蓋を開けた。

 3段重ねの中身を見た忠成の目が、キラキラと輝いた。

「ナリ、喜び過ぎやろ」

光信がおかしそうに言うと、隆志が首を振った。

「いや、これ、ほんまにすごいわぁ!」

「よし、じゃ、皆で――」

「いっただっきまーす!」

 いつものように声を揃えると手を合わせ、それぞれが箸を伸ばす。

「――どぉや?」

 少し不安そうな表情で、光信は全員の顔を見回した。

「あ、うっま!」

 唐揚げを食べた章五が幸せそうに言うと、睦亮もうなずいた。

「この唐揚げ好きやー」

「や、マジで美味いわぁ」

 いなり寿司と筑前煮を皿に取りながら、昂次が褒めた。

「きっちり、分量、同じにしたしな」

 光信が言うと、少しだけ、静かな空気が流れた。

 母親が作る弁当には、必ず、唐揚げと玉子焼きが入っていた。

 いなり寿司と筑前煮は父親の好物で、行事のときは必ず用意されていた。

 男ばかりの家族で、食べる量もかなり多いのだが、母親はいつも笑顔で、楽しそうに作っていた。

「おいしー」

 うれしそうな博也の声で、全員が我に返る。

「そうかぁ。良かったわぁ」

 光信が言うと、博也はにっこりと笑い、いなり寿司を指差した。

「あんな、これと同じの、ぼく、前に食べたことある」

「え?」

「ママが作ってな、んで、パパが笑ってん」

「――ああ、そうかぁ」

「え、ヒロ、覚えてんの?」

「うんっ」

 元気に答えた博也は、得意そうに唇を尖らせた。

「やっぱりな、パパもママも来てくれたんやねー」

 博也は幸せそうに言うと、唐揚げを口に頬張った。

「……良かったなぁ」

 昂次はそう言うと、博也の頭をそっと撫でた。

「――っし!午後も頑張れな!?

「はーい!」

しばらくすると、放送で園児たちが呼ばれ、博也も列へと走っていった。

 裕一がすっかり空になった重箱とタッパーを片付けていると、紙コップで麦茶を飲んでいた光信がつぶやいた。

「……ヒロ、全部、わかってんのかな?」

「かもなぁ……」

 裕一が返事をしたとき、放送で年少組の保護者が呼ばれた。

 競技を聞いた裕一は、にやりと笑う。

「二人三脚か」

「お、参加せな!」

「隆志、行ってこい!」

「え、僕!?

「頑張れ、陸上部!」

「タカ兄ちゃん、足速いやん」

「負けたらあかんで?」

「や、でも、2人やからな」

「タカ兄、頑張れぇ」

 口々に勧められ、どこか楽しそうに入場口に向かう隆志を見つめながら、光信はため息をついた。

「それはそうと」

「何?」

「後片付け、まだ、残ってん」

「そんなん、皆でやればええやん」

 苦笑して裕一が言うと、昂次も大きくうなずいた。

「せやで?今は、ヒロとタカの応援せな!」

「んー、まあ、そうやなっ」

 気を取り直したのか、明るく言った光信は、忠成を見て吹き出した。

「お前、まだ、おにぎり食ってたんか!?

「うん。残したらあかんもん」

 忠成はうなずくと、真面目に答えた。

「ヒロよりも、ナリが喜んでるよな?」

「おん。ナリ、喜び過ぎやな」

 章五と睦亮は小さく言葉を交わすと、顔を見合わせてにぃっと笑った。

 

 



080619初稿


両親と末っ子というイメージはすぐ出来ていて、季節的に運動会を組み込みたくてこうなりました。

人間の感覚って、本当に不思議で、すごいと思うのです。

練習を兼ねての作品なので、「一場面に全員いるときは、1人ずつに必ず1回は台詞と動きを」と決めています。

人数多過ぎて、読んでいる方にはわかりづらいよなぁと思いながら、自分でもぎゃーっとなりながら(笑)

日々、勉強です。


20111107 改稿


呼び方変更。