廊下で担任に呼び止められ、裕一は足を止めた。

 担任は進路志望用紙を取り出すと、裕一に差し出した。

 高校3年生である裕一は、今日、進路志望について記入したのだが――

「関口、就職って本気か?」

「あぁ、はい」

「まあ、お前の家の事情もわかるけどなぁ。せっかく、進学クラスで、成績も悪くないだろう?奨学金っていう道もあるぞ?」

「いやぁ、俺、そんなに勉強好きでもないですし。やったら、弟たちが進学した方がええかなぁって」

「そうかぁ。まあ、何かあれば、相談しろよ?」

「はい。ありがとうございます」

 2年生の昂次と1年生の光信も、就職を志望している。

 とりあえず、今は中学2年生である隆志を高校進学させる方が先決だ。

 絶対に大学に行って勉強したいということもなければ、そちらに費用を掛けよう、と決めたのだった。

 未成年だけの兄弟のため、近所に住んでいる親戚夫婦が保護者になっている。

 しかし、金銭面でまで迷惑を掛けることは憚られた。

 ま、行く気になれば大学なんて、歳取ってからでも行けるしな。

 裕一はそう考えながら、急いで家へと向かう。

 今日は早めに夕飯を食べて、アルバイトに行かなくてはならない。

 

「これで、大丈夫やと思うで」

「お前はほんまに、何でも出来る子やなぁ」

 感心した様子で、光信が言った。

 言われた章五は笑うと、光信にエプロンを渡し、裁縫道具を片付け始める。

 食事を作るときは、母親が使っていたエプロンを使っているのだが、肩紐の部分がほつれてきた。

 それを、家庭科が得意な章五が「直す」と縫ったのだった。

「どしたん、忠成?」

 じぃっと側で見ていた忠成に、不思議そうに章五が訊いた。

「僕も欲しい」

「え?」

「エプロン、欲しい」

「ぼくもー」

 忠成の隣りにいた博也も、真似をして言った。

「ええ?いらんやろー?」

 苦笑した光信が言うと、忠成と博也は不満そうに頬を膨らませた。

「いるもーん。ミツ兄ちゃん、手伝うねんなー?」

「なー?」

「マジでかぁ?」

 そう言った光信に、章五が吹き出した。

「ミツ兄、むっちゃ顔緩んどる」

 章五は押入れを開けると、ミシンと使っていないエプロンを出してきた。

「なら、俺が2人の分、作ったげるわ」

「やったぁ!」

「ぼくのもー?」

「おん。格好ええのにしたるかんな」

 そう言いながら、章五はミシンを用意し始めた。

 光信が、心配そうな顔になる。

「大丈夫か?ミシン、危ないで?」

「ミツ兄よりは、ちゃんと使えるで」

 章五は笑って答えると、忠成と博也に合わせてエプロンを裁断していく。

 光信は感心した表情で、腰に手を当てた。

「上手いもんやなぁ」

「何してんの?」

 睦亮が、部屋に顔を出した。

 忠成は、にこぉっと笑う。

「あんな、ショウちゃんがエプロン作ってくれるねんて」

「へえ。そりゃ良かったな」

 笑顔で言った睦亮は、光信を見上げた。

「夕飯、どうすんの?」

「あ、今やるわ。今日は、ムツが手伝いか?」

「おん。はよ、作ろうや」

「はいはい」

 光信は笑いながら、台所へと向かった。