夕方。夕飯の用意をしようと、光信は台所に向かった。
「今日は、ムツが手伝う日やろ。何処行ったん?」
光信はエプロンを着けながら、側にいた章五に訊いた。
「知らんわ。部屋で本読んでるか、ゲームしてんちゃう?」
不貞腐れた様子で答えた章五に、光信はため息をついた。
「まだ、怒ってんかぁ?」
「やって、ムツ、むっちゃぶつんやもん」
「からかわれて、恥ずかしかったんやろ?謝りづらそうやったし。そんで、部屋に篭ってんかな?」
「……俺、行った方がいい?」
少し不安になった様子で、章五が訊いた。
光信は笑うと、章五の頭を軽く叩いた。
「俺が行くわ。悪いけど、じゃがいもの皮、剥いといて」
光信は章五に頼むと、2階へと上がった。
睦亮と忠成が使っている部屋まで来ると、ノックをする。
「ムツ、おるんかぁ?入んで?」
声を掛けて、ドアを開けると、睦亮が膝を抱えて座っているのが目に入った。
「どうしたぁ?まだ、怒ってるんか?」
笑いと呆れが混ざった口調で光信が訊くと、睦亮はうつむいたまま、首を横に振る。
「なら、何?」
光信はしゃがみ込むと、睦亮の顔を覗き込むように訊いた。
「…………」
「ん?」
「……本に、手紙挟んであってん」
睦亮は、小さい声で答えた。
「うん?」
「……転校するって」
「さっきの子ぉか?」
「うん。明日、最後。……やから、本返しに来たって。皆には、明日、挨拶するんやって」
「そうかぁ……。寂しいなぁ?」
「……んー」
睦亮は複雑な表情で、眉間に皺を寄せた。
「……何で、俺に言うんかなぁ?」
「そりゃあ、何ていうか――ムツのこと、好きなんやろな」
「…………」
「両思いやな」
「……好きやないわ」
むすっとした声で答えた睦亮に、光信は笑った。
そのまま、睦亮の頭をわしわしと撫でる。
「ま、今日は手伝いええから。飯出来たら、ちゃんと下りて来いな?」
光信はそう言うと、立ち上がったが――
「うおっ!?」
部屋から出ようとした光信は声を上げて、前のめりになった。
転がりそうになったのを、何とか踏み止まる。
「何や?」
首を捻って見下ろすと、睦亮が光信の足を抱えていた。
腰の辺りに顔を埋め、動かない。
「どうしたぁ、ムツ?」
「……ぅえっ――っく」
「…………」
「っひ――っく、ぅえっ……」
小さくしゃくり上げる声が聞こえ、光信はそのままの状態で黙っていた。