日曜日。



 家族も全員出掛け、九谷美奈も友人との約束のため、家を出ようとしていたときだった。



 玄関のチャイムが、何度も鳴った。



 セールスにしてはおかしな鳴らし方だ、と思いつつ、美奈は面倒臭そうにドアを開けた。



 開いたと同時に、ものすごい勢いで人が駆け込み、ドアが閉まった。



「な、何――!?



「ごめん!助けて!」



 目を丸くした美奈に向かって叫んだのは、隣りの家に住む藤本光だった。



 玄関のドアの鍵まで掛け、外の様子を伺っている。



「どうしたの?」



「ちょっとかくまって」



「え?」



 引きつった表情で言う光が理解できずに、美奈はおろおろとした。



 そのとき、また、チャイムが鳴った。



「俺はいないから!」



 光はそう言うと、勝手に家に上がった。



 もう1度、チャイムが鳴り、美奈は恐る恐るドアを開ける。



「……はい?」



「あ!あのぉ、初めまして。理生(リオ)いいます。こちらに藤本光さん、きてはります?」



 自分より少し低い、緊張した視線で見つめられ、美奈は美奈は思わず言葉を失ったまま、相手を見つめた。



 ふわっとした柔らかそうな髪に、大きな瞳。色白。口紅を塗っているわけではなさそうだが、綺麗な紅色の形の良い唇。



 声は少しハスキーで可愛らしい。



 女の美奈でさえ見惚れて、言葉が出ないくらいだ。



 普通の男なら、好みでないとしても振り返るだろうと思われた。



「あのぉ?」



「あっ。光くん?えーっと、いるような、いないような」



 我に返った美奈は、曖昧に答えた。



 理生は、ちらりと玄関を見回した。



 光が脱いだスニーカーを見つけると、ぱぁっと明るい表情になる。



「お邪魔します」



「あ――」



 美奈が止める間もなく、理生は家に上がった。



「コウちゃん!」



「げっ!」



「コウちゃん、何で逃げるの?うち、ようやっとお小遣い貯めて、はるばる会いにきたんよ?」



「理生、お前、帰れ!」



「何でそんなにつれないこと言うのぉ?でも、そんなところがスキ」



 理生は光を壁まで追い詰めると、腕を取り、ぴたりとくっついた。



「離れろや、もうー!!



「いやや!」



 必死に振りほどこうとする光を、理生はしっかりと捕まえる。



 光がそれほど大きくないということもあるかもしれないが、理生の方の身長が大きい。



 がっしりと捕まえられ、光は抜け出せずにじたばたとしていた。



「美奈ちゃん、助けて!」



 光が悲痛な声で叫んだ。



「え?どうしたら?」



 美奈は状況がわからず、手を出せない。



 そのとき、玄関のチャイムが鳴り、ドアが開く音がした。



 そういえば、鍵を閉め忘れていた、と美奈が恐る恐る顔を覗かせると、光と双子の強が立っていた。



「強くん、いいところに!」



「あー、光も理生も?」



「うんうん。2人が大変で!」



「ちょっと失礼します」



 強は家に上がると、騒ぎが聞こえる居間へと入った。



「強!」



「あー、ツヨちゃん」



 光と理生が、同時に声を上げた。



 強は呆れた顔で、大きなため息をついた。



「とりあえず、2人とも落ち着けや。ここ、人ん家やし」



 そう言いながら、強は2人を引き離した。



 離されたあとも、理生がこっそりと1歩、光へにじり寄った。



 それに気付いた光は、引きつった顔で一歩逃げる。



「えーっと……彼女?」



 美奈が訊くと、光は心底嫌そうな顔をした。



 それと逆に、理生は恥ずかしそうに両手で頬を押さえた。



「いやぁん、そう見えますぅ?」



「ちゃう!全然、ちゃう!!



「照れなくてもいいのに」



「照れてねぇ!!



 2人はまた、言い合いを始めた。



「とりあえず、連れて帰ります」



 強は2人の腕を掴み、美奈に頭を下げると出て行った。



 あっけに取られた美奈は、心配した待ち合わせ相手から電話が掛かってくるまでそのままだった。