「ごめんなさいね。こんなじゃなければ、届けに行ったんだけど」

 申し訳無さそうに、叔母が右足に視線を落とすと言った。

 右足首には、真っ白な包帯が巻かれている。

「いや、全然、ええですよぉ。それにしても、大変でしたね」

 隆志が心配そうに言うと、叔母は苦笑した。

「ちょっと躓いただけでこれだもの。嫌になっちゃう」

 2キロほど離れた場所に住む叔母から「貰い物の西瓜を取りに来ない?」と連絡が入ったのは昨日のこと。

 しかも、「捻挫をした」と言われ、学校から帰った隆志と章五が様子を見に来たのだった。

「大変やったら、しばらくこっちに誰か来ようか?」

 小首を傾げて章五が訊くと、叔母は首を横に振った。

「大丈夫大丈夫。動けないわけじゃないし」

「そうなん?」

「遠慮しないで下さいよ?」

「じゃあ、困ったときは呼ぶわ」

 叔母はうれしそうに微笑むと、右手を頬に当てた。

「でも、西瓜は重いかしらねぇ?車で送れないから」

「これくらい、大丈夫ですって」

 隆志が笑顔で答えると、叔母も笑った。

「ずいぶん男らしいこと言うようになっちゃって」

「そうですかぁ?」

「ねぇねぇ、これ、何?」

 2人の会話を、章五が遮った。

 章五の視線は、部屋の隅に注がれていた。

「ああ、それ?昔、息子と主人が着てたものなんだけど。外に出掛けられないから、こんなのの直しとか始めちゃって」

 座ったままで移動した叔母は、章五の前に広げて見せた。

「浴衣やぁ」

 章五がうれしそうに目を輝かせた。

「章五くん、興味ある?」

「おんっ。着たこと無いもん」

「着てみる?」

「え?いいの?」

「いいわよ。着る人いないし」

 叔母は笑顔で答えたが、その言葉を聞いた2人は複雑な表情になった。

 叔父は現在、単身赴任中で家にいない。

 息子は数年前に亡くなっていた。

 その後、叔母は病気のために子宮を摘出し、子供が産めない体になっていた。

 そのためもあってか、家が近いというだけでなく、関口家の保護者として親身に面倒を見てくれている。

「着せてもらってもええかな?」

 迷っている様子で章五が訊くと、隆志はうなずいた。

「叔母さんがええ言うてるし。せっかくやから、お願いしたら?」

「うん。なら、着方教えて?」

「いいわよ」

 章五が頼むと、叔母はうれしそうな笑顔を見せた。