微かに水音が聞こえ、メグミは目を覚ました。
ベッドには、実の姿はない。
部屋の時計を見ると、10時を示していた。5時間近く眠っていたらしい。窓の外は、すっかり夜になっていた。
メグミは起き上がると、大きな欠伸を1つした。寝起きで頭はぼーっとしているが、眠ったことで多少は体が楽になっているようだった。
「あ、目、覚めました?」
部屋を覗いた実が言った。
「いつの間に起きたの?全然、気付かなかった」
「熟睡してましたもんね」
「何か、いい匂いがする」
ぼーっとした表情のまま部屋の香りをかぐと、メグミはリビングへと移動した。
「とりあえず、あるものでですけど、ご飯作ったんです。食べます?」
「食べる」
メグミが笑顔で答えると、実は嬉しそうに玉杓子を手に取った。
メグミは何となくテレビを点けた。新人女優と人気俳優が主演のドラマをぼんやりと眺めていると、実が食事を運んできた。
温かいうどんに、刻んだ油揚げと葱が入っている。
「お、美味そう」
姿勢を正したメグミが言うと、実は微笑んだ。
2人でうどんを啜っていると、CMが流れた。
「あー」
メグミは思わずつぶやいた。
そのCMは、友人であるHalcionのものだった。このドラマの主題歌を担当しているアーティストが、Halcionと同じレコード会社だというこに気付き、メグミは1人納得した。
「Halcionって、六平さんのお友達なんですよね?」
実が、テレビ画面を見ながら訊いた。
「そ、ギターの千川の方。瀬名ももちろん知ってるけど」
「何か、不思議な感じですよねぇ」
食べ終えた食器を片付けながら、実がつぶやいた。
「六平さんもテレビで見てるときとそんな変わらないのに、やっぱり、どこか違う感じがするんですよね」
「そうかな?」
メグミはつぶやいた。
そのままの自分でいようとしても、結局、どこかでズレが生じているのは確かだ。しかし、それは芸能人だからというわけではなく、誰にでも当て嵌まることなのかもしれない。
それでも、この仕事は特殊なのだろう。私生活で何が起きているか、起きていようが、画面からそれがばれないように。
……それが完璧に出来たら、どんなに楽か。
「どうしました?」
黙り込んだメグミを心配そうに見つめ、実が訊いた。
「いや、何でもない」
メグミは笑顔で答えた。彼女にくらいは、素直になってもいいのだろうが、うまく言えない。
「何か、デザートでも買いに行こうか?」
外に出ると、冷気を含んだ空気が顔に当たった。
時間が遅いため、買い物といっても近所のコンビニエンスストアだ。
2人はのんびりと夜道を歩く。
メグミは知らず知らずのうちに、鼻歌を口ずさんでいた。
「何ていう曲ですか?」
実が訊くと、メグミは、ああ、とつぶやいた。
「まだ、考えてない」
メグミの答えに、実はきょとんとした表情で見つめ返した。メグミは思わず微笑んだ。
これから先、ずっと一緒にいることになっても。
別れてしまうことになっても。
この瞬間のことは忘れないだろう。
メグミはそんなことを思い、急に実の手を掴んだ。そのまま、手を繋ぎ、歩いていく。
実は驚いた顔になり、すぐに幸せそうな表情になった。
こんなことで幸せになってくれるなら、ずっと手を繋いでいてもいい。
メグミはそう思い、しかし、照れ臭くて言葉にはしなかった。
※
070209初稿です。なので、冬の話で、季節外れですいません。
「キャラクターには全員、幸せになってもらいたい。けれど、それがどういう形になるかわからない。人間にしたって、最終的に何が幸せかなんてそのときにはわからないものだし」とかあとがきに書いてますね。何があったんだろう?(笑)
じつは、「メグミ」は「義」という字を書くんですが、ブログに書くにあたって、読めないだろうということでカタカナ表記にしました。
「実」は本名は「ミノリ」でPNだと「ミノル」だったんですが、「ミノリ」でいいです(笑)