いよいよ手術当日。
緊張して眠れないかと思いきや、寝不足だったのでわりとしっかり寝た。
そういや前日に経口補水液の500mlボトルを3本渡されて「最低でも1本は飲んでください。麻酔が安定するので」と言われていた。がんばって飲んだけど1本とちょっとが限界で、案の定、看護師さんに「もっと飲んでほしかったな……」みたいな顔をさせてしまう(ような気がした)。
というわけでこれから手術を控えている方はなるべく多く飲みましょう。
手術は朝9時から。手術着に着替えて、着圧ストッキングを履く。
8時50分頃に看護師さんが迎えに来て、歩いて手術室へと向かう。
途中、デイルームにやたらしょんぼりしている中年男性がいると思ったらうちの旦那だった。わたし以上に不安そうだ。一方わたしは、明日までご飯が食べられないことに絶望していた。もうすでにめちゃめちゃお腹が空いているというのに大丈夫なのか。
旦那とは手術室前でいったんお別れ。
眼鏡を外して、いざ手術室の扉がオープン。
寝台に横たわりながら思わず「すごーい、ドラマみたい」とつぶやくと、看護師さんたちが「そうよ! 今日はあなたが主役よ!」と盛り立ててくれた。この病院のみなさん、本当に気立てがよくて明るい方ばかりだなぁ。大して調べもせず立地だけで決めた病院だったけど、ここでよかったと思う。主治医もイケオジだし。
「今日はここからここまでを切りますよー。
がんが皮膚に近いので、皮膚を切り取ってね。
乳輪に沿って切るので傷はそんなに目立たないかと思います」
「はい、お願いします」
仰向けになった状態で右腕に点滴が刺された。
他のブログでは背中に麻酔すると書いてあったけど、どうやらここは違うようだ。背中の注射は痛いと聞いていたのでよかった。
そうこうしているうちに、なんだか頭上のほうが慌ただしい。
「どうしよう、パソコンにログインできない」
「誰かパスワード知らないの?」
「情報システム部に連絡しよう」
「これが立ち上がらないと始まらないよー!」
なんか……大変そうですね……。
「お待たせしちゃってごめんなさいね〜」「いえいえ、ごゆっくり」という感じで、しばらくぼんやりしながら待つ。麻酔とは関係なしに寝てしまいそうだ。
と思ったのも束の間、ずしん、と身体が重くなった。
意識がぎゅーっと沈められていく感覚。麻酔か? これが麻酔パワーなのか?
うぅ、ちょっと待ってほしい。パソコンの調子が気になる。やだやだ、情シスの人が来るまでは寝ないもーん! と大晦日の子どものように抵抗を試みる。
そんなわたしの手を、看護師さんがぎゅっと握ってくれた。
「あら冷たい。緊張してたのねー」
優しいなあ。お母さんみたい。
その声が最後の記憶だった。