太陽系と冥王星の最新情報:産経新聞引用
- 渡部 潤一, 布施 哲治
- 太陽系の果てを探る―第十番惑星は存在するか
【週末に読む】太陽系誕生の謎へ
近頃もっともスケールの大きなニュースは、わが太陽系の果てにおいて発生した。教科書でおなじみの冥王星が、私たちの地球と同じ惑星仲間から追放されたのである。
惑星の定義をめぐり国際天文学連合の総会で、投票によって採決された。宇宙的な科学理論にも多数決のルールが優先する。まことに地球的な出来事には違いない。
ともあれ、冥王星がニュースの主役をつとめたのは、これが2度目である。いまから76年前の1930年3月16日、日本の新聞はデカデカと報道した。
「太陽系9番目の新惑星を発見!」
発見したのは、米ローウェル天文台の若き研究者、クライド・トンボーであった。新惑星の名前は、ローマ神話からとって「プルート」とつけられた。
ローマ神話のプルートは、ギリシア神話でハデスと呼ばれ、冥府の神である。日本語名の冥王星は、星の民俗研究で知られる野尻抱影によって名づけられた。
渡部潤一と布施哲治の共著『太陽系の果てを探る』(東大出版会)は、こうした惑星発見の歴史を紹介しながら、最新の太陽系天文学について語っていた。
「冥王星を惑星と呼ぶかどうかという問題さえ提起されている」
惑星はいずれも太陽に対して同じ平面上に円軌道を描きながら公転している。冥王星だけ軌道面が傾き、軌道の形も違う。大きさも、地球をビー玉とすれば、ゴマ粒くらいにあたる。
さらに、1990年代以降に冥王星と同じような軌道をもつ小天体がつぎつぎに発見された。現在では1000個以上の天体が確認され「エッジワース・カイパーベルト」と呼ばれている。
科学誌『ニュートン』別冊シリーズ『太陽と惑星』(ニュートンプレス)は、今年6月に発行したさい、今回の国際天文学連合とほぼ同じ見解を示した。
「冥王星は、惑星というより、そうした小天体群の仲間に近い」
問題は、冥王星の“資格”論争ではない。私たちにとって一番近い宇宙である太陽系は、あいつぐ新発見によって、いま全体像を大きく変えようとしている。
太陽系はどのようにして誕生したのか。惑星はどうやって現在の姿になったのか。46億年の昔にくりひろげられた壮大な物語に挑戦の時代を迎えた。
新たな惑星探査計画や大型望遠鏡による観測。さらに室内実験やコンピュータシミュレーション。そうした『惑星科学の最前線』について『ニュートン』誌9月号は、特集した。
その最前線で日本の活躍が光る。太陽系形成のモデル理論として京都大学の林忠四郎博士グループと、米ハーバード大学のアル・キャメロン博士グループの提唱が、よく知られている。
「最有力説は京大グループの理論を受けつぎ、日本の研究者がリードしている」
それにしても、冥王星はアメリカ人によって発見された唯一の惑星である。その名前は、ディズニーの人気者ミッキーマウスの愛犬「プルート」として親しまれてきた。
「冥王星、死す」とアメリカの新聞はくやしそうに報じた。抗議集会をひらいた。惑星の定義のやり直しを求めて署名運動もはじめた。
気持はわかる。それでも、惑星はアメリカの思惑通りに動いているわけではない。(山田愼二)
(09/10 08:07)