糖尿病の自己管理:読売新聞引用 | なんでも日記

糖尿病の自己管理:読売新聞引用

「バイブル」励みに23年間


自己注射も血糖測定もすっかり習慣として身についたという市川孝治さんと妻の洋子さん(埼玉県大井町の自宅で)

 やたらとのどが渇いて、身体がだるかった。化学プラントの設計をしていた埼玉県大井町の市川孝治さん(65)は23年前、こんな症状に襲われた。

 東京都内の医療機関を受診すると、血糖値は540(正常値は110未満)。即、糖尿病と診断され、インスリンの自己注射を始めた。すい臓からインスリンはほとんど出ていなかった。体形はもともとやせ形だった。

 「ショックでしたよ。インスリンがなければ、命はないのですから」

 検査、教育入院の10日間で、市川さんは、担当の若い医師にとても強い印象を受けた。

 退院前、リポート用紙4ページにわたり、血糖値の変化を示す数値やグラフを書き込みながら、糖尿病との付き合い方について説明してくれた。たっぷり1時間。丁寧な話しぶりに、胸が熱くなってきた。

 「この先生の熱意に報いられるよう頑張ろう」。たばこをやめ、毎日の食事は1720キロ・カロリーに。妻の洋子さん(60)の協力で健康的な生活を続けてきた。

 「この豚のしょうが焼きはちょっと厚みがあるから、一切れだけにする」という具合だ。油や糖分が多い外食は極力避ける。

 食事の前に、血糖値の自己測定を始めて10年以上になるが、ほぼ正常値におさまっている。最近はパソコンに入力して、毎月の受診日には持っていく。

 「慣れるとなんでもありません」。4か月に1度の眼底検査で、一昨年と今年、合併症の単純網膜症が左目に見付かり、レーザー治療を受けた。ほかの合併症はない。

 市川さんは、最初の教育入院で受け取った医師の説明書きを「私のバイブル」と呼び、自己管理の励みにしてきた。その医師とは教育入院の後、それきりになったが、昨年暮れ、通っていた病院が閉じたのをきっかけに、消息を尋ね、23年ぶりに再会、通い始めた。

 医師、門脇孝さん(52)は東京大の教授になっていた。

 「立派に自己管理して、元気で生活されていたのでうれしいですね。患者さんの2割ほどは市川さんのようにきちんと管理し、全体の3分の二ぐらいの方はよくやっています。そうした方々をもっと増やしたいですね」と門脇さん。

 そして、糖尿病治療について語る。

 「10年ほどの間に、新しい飲み薬や多様なインスリンが登場し、血糖を管理しやすくなってきました。しかし、治療法が増えても、生活習慣が重要なことに変わりはありません」

 「ちゃんとしてないと落ち着かなくて」と自身の手綱をしっかり握る市川さん。自己コントロールは、満足感につながっているようだ。(渡辺 勝敏)

(次は「臨界事故から5年 被ばくを考える」です)

 糖尿病治療の今後 自己注射ではない、吸入や点鼻によるインスリンの投与が臨床研究段階。肥満は糖尿病の原因になるが、食べても太らない、太っても糖尿病になりにくい薬の研究も進んでいる。

2004年9月11日 読売新聞)