ウルトラ・ダラー:日刊ゲンダイ引用
| 【HOT Interview】 2006年3月18日 掲載
「日露戦争以来、日本の情報戦のセンスは眠りっぱなしです」手嶋龍一氏前NHKワシントン支局長が小説家デビュー
NHKを代表する海外ドキュメント番組の制作、演出で知られた前ワシントン支局長、手嶋龍一氏がついに小説家デビューを果たした。 最新刊「ウルトラ・ダラー」(新潮社 1500円)がそのデビュー作だが、英国諜報部員を主人公に、北朝鮮が世界に流布させた偽米ドル札の真実を暴く手際は圧巻だ。 「私は日露戦争以来、僕ら日本人のインテリジェンス(情報戦)のセンスは眠りっぱなしだと思っています。それは近年だと数々の日本人拉致事件から外務省幹部の北朝鮮とのネゴ疑惑、第1次湾岸戦争以来の日本外交の失敗、首相の靖国参拝問題からエネルギー政策まで、数え上げたら切りがないほどの現実が証明していると思います。そこで少しでも日本の、日本人のインテリジェンスの感覚が蘇っていただければ、という思いでこの物語を書きました」 ちょっととぼけた味わいの英国人エージェント(情報機関の協力者)を主人公に、スパイ同士の恋愛もあるエンターテインメントに仕立て上げられているが、この物語に登場する人物や組織、事件の経緯はほぼ現実のものだという。 「具体的には、英国オックスフォード大学でのエージェントのスカウトから育成、日本の鎌倉にある受け入れ機関や、世界最強の捜査機関・米財務省傘下のシークレットサービスのメンバー、組織の機能などはすべて現実です」 読みどころは、このウルトラ・ダラーが最初に確認されたのは、02年、アイルランドのダブリンだったこと。そして、モスクワ経由でIRA幹部が運んだ事実が書き込まれている部分も圧巻だ。 さらにこの通貨テロともいえる工作は、実は北朝鮮を対米カードとして操る、某東アジアの大国の存在なしにはあり得ないことも明らかにする。 「ひとつ指摘しておきたいのは、これは報道された事実を基に組み立てた物語ではないということです。バラバラのピースとして存在した情報と、私のディープスロート(情報提供者)が提供してくれた情報を基に構成した物語で、書いた後に現実が追いついてくる、そういう作品です。ただ唯一、書き手の私も真実であってほしくなかったのは、日本の外務省幹部が北朝鮮と通じていた事情。これだけは嘘であってほしいと、いまだに思っています」 【作品概要】 2005年秋、米国は北朝鮮の偽米100ドル札(ウルトラ・ダラー)流通疑惑の大本であるマカオの銀行を摘発した。背景には60年代に起きた若い日本人印刷工らの拉致事件、80年代の米国、スイスで起きたドル紙幣用原材料と紙幣印刷機詐取事件が横たわっていた。 この通貨テロともいえる国際事件を、表向きは英国BBCラジオの東京特派員の主人公と、世界最強の捜査機関・米財務省シークレットサービスが、北朝鮮と背後に控える東アジアの大国の仕業に収斂する深い闇を暴きだす。 ▼てしま・りゅういち 1949年、北海道芦別市生まれ。慶応大経済学部卒後、NHK入局。政治部記者を経て87年から91年までワシントン特派員。95年から独ボン支局長、97年から05年まで米ワシントン支局長を務め退職。現在は東京、ワシントン、ロンドンを拠点に外交ジャーナリスト、作家として活動。著書にノンフィクション「ニッポンFSXを撃て」「一九九一年日本の敗北」など。 |
