中国の医療問題:北村レポート
極めて深刻な中国の医療問題
- 2006年4月21日 金曜日
中国共産党で序列6位の黄菊(政治局常務委員、常務副総理)が膵臓ガンに侵されて余命いくばくも無いという噂が流れている。
1月中旬から公の場に姿を見せなくなったことから自殺説まで含めて多くの怪情報が飛び交った。どうやら、1月に受けた定期検診で膵臓ガンと判定されたが、ガンの部位が悪く、既に転移が始まっていたことから重篤な状況にある由。政治局常務委員会は共産党の最高指導機関であり、現在は胡錦濤総書記以下9名で構成されているが、昨年も序列8位の李長春が幽門ガンを患い、こちらは幸運にも手術が成功している。昨年は李長春以外にも中央軍事委員会常務副主席の郭伯雄や国土資源部長の孫文盛ほかがガンと認定されており、中国の指導層のガンの罹患率は相当に高いようである。
中国の高級幹部たちに普遍的なのは肥満
一方、中国の高級幹部たちに普遍的なのは肥満であり、連日連夜参加する宴席の美食と美酒が否応なしに肥満を促進する。肥満がもたらすのは贅沢病と言われる糖尿病や高血圧、心臓病であり、高級幹部たちの通院・入院・手術といった話は日常茶飯事のこととなっている。かつて日本政府ODA(政府開発援助)の対中無償援助協力に「天津代謝病防治センター機材整備計画」という約5億円の案件があったが、『代謝病』とは外務省が日本国民を欺くために言い換えたもので、中国の要請を受け、5億円もの日本国民の血税を使って高級幹部用の「糖尿病予防治療センター」に機材を供与したというのが実態であった。
中国社会科学院が発表した医療衛生報告によれば、中国では都市住民の70%、農村住民の96%が異常に高い医療費にまともな診療を受けることが出来ていないとある。これに対して、共産党、政府、軍の幹部を主体とする850万人の特権階級は医療費が免除されており、中国政府の医療予算の80%はこれら特権階級のために使われているという説もある。
上海市を例に取ると、中級幹部(区長・局長級)及びそれ以上の幹部は退職者も含めて1万8000人ほどいるが、1年間に公費として処理されるこれら幹部たちの医療費の総額は、上海市のこれら幹部用経費のなんと69%にも達している由。更に上海市では、現職の上級幹部(省長・部長級)や上海で休息を取ったり、既に退職している上級幹部は322人いるそうで、これらの人々の公費として処理される保健・医療費の合計は12億元(約170億円)で、これに含まれる滋養品だけでも3億5000万元(約50億円)に達するとのこと。これに対して、上海市の公費補助を受ける一般の公務員や社会保険の庶民たちの医療費の年間平均額は328元であることを考えると、共産党支配の素晴らしさがよく理解できる。
中国の監察部と人事部が最近発表したところによれば、全国の共産党と政府部門では200万人もの幹部が長期傷病休暇を取得しており、そのうちの40万人の幹部は長期間にわたって病院の幹部用ベッドを占領していると。また、幹部用の接待所や休暇村の1年間の支出は500億元(約7000億円)にも上るとのこと。
中国の農村では医療保険制度そのものが存在していない
中国の農村では医療保険制度そのものが存在していないと言ってよく、昨今の高騰する医療費の影響もあって、農民は病気になっても医者にはかかれず、市販の売薬頼みで、薬効がなければ、死を待つのみという状況にある。これに対して都市では2004年末時点で1億2400万人が基本医療保険に加入しているが、これらは一定限度までの医療費が補助されるだけで、医療費の高騰により医療保険に加入している恩恵に浴している人々でさえも医者にかかれない状況が出現している。こうした医療費の高騰は医者による診察・治療費の乱脈徴収や大量の高価薬品使用による割戻しなどに起因している。
2005年8月に黒龍江省のハルピン医科大学付属第2病院で死亡した75歳の男性患者は、ガンで5月に同病院の高級幹部病棟に入院した後、6月にICU病棟に移された。この患者はICUで68日間に亘る延命治療を受けたがその甲斐も無く8月6日死去。その後に病院から家族に請求された金額は、入院費用が142万元、薬品代が400万元の合計542万元(約8000万円)であった。当然ながら、この金額に家族は驚きあきれるばかりで、病院に明細を示すよう要求、遂にはメディアの取り上げるところとなり、2005年12月15日「新世紀ネット」が「超高額医療費事件」として報道し、国営テレビの中央電視台もこの事件を報道するに及んで、中国全土に大きな波紋を呼んだ。
中国政府は監察部、衛生部、黒龍江省からなる調査チームを派遣して、事件の究明に当たった。調査結果は患者家族の支払額を138万元とし、病院長以下病院関係者多数の免職、病院に対する警告で決着した。この事件は氷山の一角に過ぎず、これを契機として中国国内で類似の超高額医療問題が多数提起され始めたが、医療体制全般に対する庶民の怨嗟の声は日増しに高まりつつある。中国の格差は医療にも大きな影を落としている。