第46回群像新人文学賞優秀賞受賞者コメント;日刊ゲンダイ引用 | なんでも日記

第46回群像新人文学賞優秀賞受賞者コメント;日刊ゲンダイ引用

村田 沙耶香
授乳

【NEW WAVE】

2005年4月3日 掲載
第46回群像新人文学賞優秀賞 村田沙耶香氏に聞く

「初潮を迎えた頃の少女の感性って好きですね」

「思春期の女の子の残酷さとか、オンナの部分と少女の部分のせめぎあいを精緻に描きたかった」と語る村田沙耶香氏。最新刊「授乳」(講談社 1500円)は、選者の藤沢周が“小説を書く原点をもつ”と絶賛した群像新人文学賞・優秀作他2編を収録する。若い女の子たちを主人公に、リアルに怖い“問題あり”の精神世界を鮮烈にえぐり出す。

【作品概要】 表題作は女子中学生の「私」と、異様なほどの潔癖症の母と、28歳の家庭教師青年の物語。家庭教師の院生はまるで自己を消滅させたような無機質な存在だった。私と一言も言葉を交わさずただ答案を添削するだけ。
 だがある日、私は彼の腕に自傷行為のあとを見つけ、手当てしたことをきっかけに関係が変わる。命令を下し、私のブラウスのボタン、ブラジャーをはずさせ、乳首を赤ちゃんへの授乳のように彼にくわえさせる私。その現場に母が踏み込んで……。

――「授乳」では主人公の女子中学生「私」が相当残酷に描かれる。潔癖症の母親を見下し、家庭教師の大学院生にはある意味、無残な仕打ちを繰り返す。何を描こうと?
「わかりやすくいえば、思春期の女の子の中にあるオンナの部分と少女の部分のせめぎ合い、そして少女が本来もつ残酷さ、ですね。あえて言えばこの作品は、少女と青年の“主従小説”かも。そういうものを頭の中で想像したりしていると、快楽を得られるので書いた、というか(笑い)。初潮を迎えた頃の少女の感性、反応、そういうのが好きなんです」
――最後のシーン、薬で眠りこける母の胸・顔を、蟻が這っているからとローファーを履いた足で踏みつける。これも怖い。
「自分の感情をコントロールできない思春期の象徴のシーンだと思います。主人公は母を、少女の部分を抱えたまま父に寄生する女と見下していたんですが、あの瞬間、強い女としての母があらためてその存在感を得た、それに主人公が反応したシーンなんです」
――同時収録の、キャラクター人形と恋愛する女子大生と小学生の女の子の物語「コイビト」も狂気じみて怖いお話だが、この作品集はゲンダイの読者にどう読んで欲しい?
「そんなに怖いですか?『コイビト』は私にしては珍しく明るい、愛らしい作品なんですけど。でも男性の中にも、成長期の自分を愛せない、というものがあるらしいですから、そういうものを私のこの作品集で見つけていただけたらうれしいですね」
 血液型不明の獅子座、独身。趣味はMDを聴きながら自転車で街中をグルグル走り回ること。
「その時は頭の中で、ひたすら私の物語の映像を思い描いているんです」
 ときに空中に見えないテレビ、映像を据え、チャンネルを回しっぱなしのことも。「好きな本は何度も読み返して食べたくなるぐらい。私の作品も読んだ人にそう思われるようになりたい」とも語る。ユニークで鮮烈、強烈な感性の大型新人の登場だ。

◆むらた・さやか 1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。03年「授乳」で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞、本作品集で本格デビュー。現在も都内某コンビニで働きながら創作活動を展開中。