第6回ホラーサスペンス大賞受賞者コメント:日刊ゲンダイ引用
- 吉来 駿作
- キタイ
【NEW WAVE】
2006年3月4日 掲載
第6回ホラーサスペンス大賞受賞 吉来駿作氏に聞く「大人のためのホラー落語として楽しんでいただきたいですね」
――死んだはずの18歳の少年が蘇り“弥勒となって56億7000万年を生きる”と宣言する。その秘法を隠すため、凄惨な殺戮(さつりく)の物語が開始される。欧米産ホラーとはまったくちがう、アジア的霊魂、仏教思想などが背景にあることも特徴だ。こういう物語はどこから?
「欧米の本場のホラーには、必ず宗教、悪魔的存在が登場します。正統派の恐怖にはやはり宗教が不可欠で、私の場合、ここは仏教で、となりますね。直接的には東麻布で足のマッサージの仕事をやって、けっこうつらい思いをしまして、そこでたまったものを吐き出したところ、こうなった(笑い)。子供の頃から怖かった昆虫、とくに寄生虫類の生態も取り込みました。現実世界の怨念というか、世間の満ち足りた人々の豊かな思い出を、満たされないまんまの私に移植するにはどうするか、という発想に、寄生虫が答えを出してくれたわけです」
――登場人物たちの愛憎、家族や、老人たち、近親相姦、愛犬の存在といったものも物語の重要な要素。とくに報われない愛がテーマと読めるが、一番書きたかったものは?
「誰も考えつかないことを書いてやろうと思いました。人が誰しも逃れ得ない老い・病み・死を、こうすれば私も、読者も、そこから逸脱できるのではないか、というものを、ですね。それは最高のファンタジーではないでしょうか。それと、何が起きても不思議ではない香港という土地も大好きで、あの一種異様な空間はこれからも書いていきたいもののひとつですね」
――著者おすすめの読みどころは?
「実は文章の土台には私の大好きな落語、例えば6代目円生さんの語り口を利用しています。大人のためのホラー落語として楽しんでいただきたいですね。かつての仲間が悪魔的存在と再び協力して闘う、心が熱くなる物語としても楽しんでいただけると思います」
選者の桐野夏生氏が「6年間、選考委員をやってきて、一番面白い作品に出合った」と評する、日本発本格ホラーの書き手が登場した。
【作品概要】
古代中国に伝わる死者復活の儀式・キタイ。定められた場所でその儀式を行うと、遺体の中に青玉が生じ、そのぬめる玉をのんだ人物に死者が乗り移って蘇るという。
そのキタイの場所が日本の茨城県内にあった。深町ら8人の高校生は、キタイを捜しに訪れた香港人の指南を受け、死んだ仲間・葛西を蘇らせようと儀式を行う。だが葛西は蘇らず、異様な現象が頻発、8人の人生は大きく狂い始める。そして16年後、葛西は復活、キタイの秘密を知る仲間を次々と殺し始めた……。
▼吉来駿作(きら・しゅんさく) 1957年、茨城県古河市生まれ。県立古河第三高等学校卒後、上智大学経済学部に進むも中退。実家の青果店手伝い、塾講師、都内足マッサージ店などでの仕事を経て、05年、本作で第6回ホラーサスペンス大賞を受賞し、作家デビューする。