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http://jp.wsj.com/US/Economy/node_139248
米FRBはなぜインフレ率の小幅上昇を望むのか
2010年 10月 25日 21:06 JST

 米連邦準備理事会(FRB)当局者は過去数十年のほとんどの間、
インフレを抑え、その状態を維持する、という長期的な最重要目標に照準を合わせてきた。
しかし今では、小幅なインフレ高進を望んでいる。
 ややこしい話だ。個人や企業の支出が増えれば停滞する景気に寄与するだろうに、
彼らの払う金額を押し上げることは本当に有益なのか。

 エコノミストらは、インフレ調整後の金利、つまり実質金利を押し下げることが重要だと説く。
しかし、これは消費者や企業にとってどんな意味を持つのだろう。
 9月の連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBは、新たな景気てこ入れ策、
おそらくは大量の米国債の追加買い入れの用意があることを示した。
理由については、「長期にわたる、雇用最大化と物価安定の促進という責務の観点から、
同委が最も安定的と判断する水準より、基調インフレが幾分低い」ため、だそうだ。

 では、FRBは何を行おうとし、どんなリスクを取ろうというのか。
 FRB当局者は一般に2%が熱すぎず、冷たすぎず、年間インフレ率として適正だと考えている。
これに対し、今年1-8月のインフレ率は1%強で推移した。
 FRBの目標の1つは、企業や家計が現在の消費や投資を増やすような見通しの醸成だ。
自動車や食洗機の価格が上昇するとの見方が広まれば、
借金して今のうちに買おうとする動きが増えるだろう。

 たとえば、新車購入を検討しており、年率3%の金利を提示されている場合。
その車が来年5%値上がりすると思えば、このローンを組んで今購入することは理にかなっている。
1年後に買うのであれば、コストは増えることになる。
ただし、車の価格が変わらないと思えば、3%ローンの魅力は薄れる。
待つことのコストが下がるためだ。

 リッチモンド連銀でエコノミストを務めた経験を持つカーネギーメロン大学経営大学院の
マービン・グッドフレンド教授は
「FRBは将来の購入を前倒しさせて現在の需要を喚起したいようだ」と述べた。
米消費者は貯蓄を増やすよう何年も言われて続けてきた。そして実際にそうしている。
これに対し、「今だけは手加減してください。お願いです」
というのがFRBの基本的な言い分だ。
 消費者心理は読み違えやすい。米国人は外出が好きだし、
コンピューターやテレビの価格が低下するなか、購入に積極的な姿勢を見せてきた。
企業も同じだ。
ウィリアムズ大学のケネス・カットナー教授は「これが成り立つためには、当然ながら、
資金を投じる価値があると企業が思える対象が必要だ」と語った。

 FRBがインフレ率の小幅上昇を望む理由はまだある。
既存の負債について、消費者や企業の負担を和らげたいためだ。
物価上昇時には、賃金が上昇し、固定金利ローンの返済がラクになる傾向がある。
 たとえば、年間5%の賃上げを見込んで3年前に3%の固定金利ローンを組んだ場合。
実際の賃上げが1%にとどまれば、返済の負担は重くなる。
 インフレ率が低くなりすぎると、経済はデフレに陥る、
つまり賃金や物価が下落するリスクをはらむ。
この状態は、多額の融資を抱える個人や企業にとって特に厳しいかもしれない。

 クライスラーとゼネラル・モーターズ(GM)が
2009年に破産法適用申請に追い込まれた理由の1つは、製造コストの上昇を抑えられず、
利幅が崩壊したことだ。
 新車の販売価格は07年と08年に平均で年間0.4%低下した。値下げを主導したのは両社だ。
 FRBは景気後退で疲弊した家計を再び消費に導くために2%のインフレが望ましいとしているが、
一部エコノミストはこれをも上回る必要があるとしている。
 インフレ率を小幅に押し上げようとするだけでも、
FRB当局者をためらわせるような多くのリスクがある。
たとえば、結果として借り手は救われる一方、融資の魅力は損なわれる。
カットナー氏は「この環境では、誰が融資したがるかという点が疑問になる」と語った。

 FRBの措置により、石油やその他の輸入商品(コモディティ)など、
間違った場所で物価が上昇するリスクもある。
こうした商品の輸出国にはプラスだろうが、多くの米消費者にとっては打撃だ。

 加えて、FRBは期待している小幅なインフレ高進以上のものを生み、
それを抑えるため利上げして景気後退に逆戻りせざるを得ない状況に陥る可能性もある。

 家計や企業の期待が将来のインフレ形成に果たす役割は大きい。
消費者が、インフレ率の大幅上昇を予想するようになれば、
自らその予想を実現させる可能性もある。
ただ、インフレスパイラルに陥れば、景気後退で疲弊した企業が、
再びの景気拡大に必要とされる投資に乗り出す公算は一段と小さくなる。
 グッドフレンド教授は
「FRBがインフレ率上昇への期待を表明することは非常に危険に思える」と述べ、
「国民の長期見通しを愚弄(ぐろう)しながら、
長期的な低インフレという見方を固定させるために中銀として手を尽くしたいというのだから」
と説明した。