家の近所にとてつもなく怪しいとんかつ屋がある。
営業中という古ぼけたちっこい看板がドアにかけてあるのだけれど、
店前にあるメニューのディスプレイケースがかなりドロンとした感じで恐ろしさすら覚える感じなのだ。それはもうはっきり汚いと口にするのも怖いようなほこりっぽさが50メートル先からでもわかる。
日に焼けたエビフライ定食の上にクマのぬいぐるみが落ちていたり(置いてあるのではなく、明らかに落ちている)、色あせたプレスリーみたいなおっさんの絵が飾ってあったり、周りにクリスマスツリーの飾りが施されたいつ撮ったのかわからないようなカツ丼の写真があったり…
メニューをディスプレイするケースのはずが、はっきりいって見るのもためらう死んだ祖母の昭和初期のおもちゃ箱みたいになってる。
そのくせとんかつ定食は1500円と和幸顔負けのお値段なのだ。
店を取り囲む湿ったオーラと、使用している電気のワット数の低さと、何より一切店内が見えないことと、客が入っていく姿を目撃したことがないという以上の結果から、おそらく亭主のぐだぐだな道楽程度の店と認識していた。
そしていつもの帰り道。とんかつ屋の向かいの道を歩いていると、けたたましいサイレンを鳴らした消防車と救急車がとんかつ屋めがけて走ってきた。
まさかとんかつ屋で事故?とんかつ屋の事故は危険だよ!油に火がついて亭主も大火傷でまもなくガスに火がつき爆発事故に発展するんだ!ああ、この世から切り離されたような店でよりにもよって事故だなんて不幸な結末過ぎる。
しかし隊員たちはその退廃的な店の扉を開けていいものか微妙にためらっている様子で、
やっとオレンジレスキューが扉を開けたのだが、ぽっちーは怖くてそれ以上見ていることができずとんかつ屋に背を向けて真っ直ぐ家に向かった。
翌日、店の前を通ると何事もなかったかのようにいつもの営業中の看板が出ていた。
よかった…。
亭主は無事だったに違いない。