こんにちは、MD.Kです。

今回ご紹介するテーマは【検診を受ければ、将来心臓が悪くなるかどうかをAIが判断してくれる】可能性があるという事です。

取り上げたのは医学会では有名なアメリカのメイヨークリニックのZachi I. Attiaさん率いる研究チームが2019年1月に発表したこちらの論文です。この論文はNature medicine (IF:34)という権威ある雑誌に掲載されたことは、この研究結果がとてもインパクトがあったということを物語っているんだと思います。

 

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☆ 注目した論文:

Screening for cardiac contractile dysfunction using an artificial intelligence–enabled electrocardiogramNature Medicine volume 25, pages70–74(2019). 07 January 2019

 

世の中には、特に症状はない (無症候性) けれど、心臓超音波検査上は実は心機能が低下 (心臓の収縮力が弱っている) していたという方が一定数存在するのですが、彼らは長期的にみると将来心臓病 (心不全など) に罹るリスクが相対的に高いとされています。この無症候性の心機能不全 (ALVD: Asymptomatic Left Ventricular Dysfunction) 患者がアメリカには一般人口の3-6%に存在し、約700万人以上のアメリカ人が罹患しているとされています。ただ、通常の検診では心エコーまでは実施しないため、こういったリスク対象者を検診レベルで検出することは困難と考えられておりました。

 

メイヨークリニックの今回の研究では、AI技術を利用し、心電図波形のみから無症候性心機能不全(ALVD) を見つけ出すシステムを開発したと報告されています。これであれば心エコー検査を受けていない集団から心機能が落ちていそうな人たちをピックアップできる可能性があります。

 

研究チームは、同病院に蓄積された620000セットにもおよぶ、心電図 + 心臓超音波結果のセットを抽出し、Convolutional Neural Network (CNN: 畳み込みニューラルネットワーク)をトレーニングしました。CNN属性(低心機能症例の心電図の特徴)を一般化して、心電図の特徴から、心機能の予測を行うようにプログラムされました。

 

こうしてトレーニングされたCNNを用いて、外部検証用に使用された52,870人の患者でテストを行ったところ、

感度、特異度、精度は、それぞれ85%、86%、86%の正確性で心電図変化から低心機能の症例を検出する事ができました。

 

さらに、心電図のAI解析で異常と判断されたが、その時点ではエコーの心機能は正常であった患者が、将来心機能低下するリスクは相対的に5倍程度増加すると推定されました。研究チームによれば、「心筋の代謝・構造の異常が、何らかの変化として心電図に現れ、AIが人間よりも早期の段階でこの変化を認識できることを示している」と指摘しました。

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☆ 個人的な感想を述べさせていただきます。

 

今回の発表は、Nature medicineという一流雑誌に掲載されている点で大きなインパクトがあるといえると思います。
医療界では、この【impact factorが高い】 = 【エビデンスの強い報告である】 = 【価値のある論文である】という考えがあり、

この考えの事を、Evidence Based Medicine (EBM)といいます。AI関連の論文がこういった雑誌に掲載されることは、医療界の大きなダイバーシティの1つあったと考えます。

僕ら医師は、新しいアイデアを世に広める手段として、論文を武器として使っているわけですが、今後こういったAI技術を利用した論文は新しい強力な武器の1つとして益々注目されるのだと思います。そこで、自分なりにどういったポイントを押させて、論文のテーマを考えていくのがよいか考察してみました。



・研究テーマを見つける上でのポイント:
① これまで人間(医師)の判断による影響を受けていたデータ (CT、エコー、心電図など画像情報が典型的)。
② これまでの医学で疾患との関連性が調べつくされたと考えられてきたデータを対象とする (例えば、心電図で虚血性心疾患の時にはSTが低下する、レントゲンでは肺炎は肺が白くなる。など)。
③ 人間(医師)には認識できない程度の小さなデータの変化を、記録数の多さを利用して炙り出すという考えを用いる (AIは、より早期の段階で変化を抽出できる、あるいはより微細な変化をキャッチできる。など)。


こういった発想をもって【AI×医学研究】を考えるといろいろな研究ができるように思います。
例えば【心不全では心拡大が起きる事が知られているが、AIではより早期の段階から将来の心不全発症を予測できる】【消化管内視鏡検査による前癌病変の診断制度はAIの方が医師よりも優れているかもしれない】など。もしかしたら既に研究結果が報告されているかもしれませんが、こういったテーマを選べば、現代の医学会に大きなインパクトを与えるエビデンスを築けるかもしれませんね。

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