読書家というほど人生で本を読んだわけでもないが、なるべく身辺を
整理する時期になって、本棚で埃をかぶってる本に一言、感想をそえて
廃棄しようと思う。ま、ほんとにそんなに本なんてないんですが。
下町酒場巡礼が1998年、続編の下町酒場巡礼 もう一杯が2003年
刊行で続編が19年前、本編に至っては24年も前、前世紀の書籍である。
四十代から五十代にかけて、散歩が趣味で休日にはよく出かけた。主に歩いた
のは所謂、下町で今のように東京全体が均一化した風景を呈しているわけ
ではなく、京成沿線の家並みなどつげ忠雄の末枯れた世界がそのまま残って
いた。まあ、金もなく車も運転できなでスポーツもダメという人間にはピッタリ
の暇つぶしだった。
まるで異郷のような、下町をほっつき歩いて、安い飲み屋でホッピーを飲んで
ヤキトンを齧る夕暮れというのも中々、いいものだった。
今では有名になった葛飾区立石のホルモン焼き屋、うちだもこの本で初めて
紹介されたのではないか。わからんけど。この本にある飲み屋は半分くらい行った
気がする。確かに美味い店が多かった。今もあるかどうか分からないけど、十条の
斉藤酒場、東十条の埼玉屋、新潟屋、北千住のおおはし、北区滝野川の高木、浜松町
の秋田屋などいい店だった。
アラーキーが佃島の船泊の向こうに高層マンションが屹立する写真をとったころで
喪われていく古いものの再発見のような趣が当時、流行った東京論にはあった。その昔
は下町の飲み屋に価値を見出すなんてことはなかった。
先日、佃島に行って驚いたのは、長屋の残る下町と高層マンションという図式がなくなり
ほとんど高層マンションやらお洒落な飲食店になってしまっていた。
遠太という荒川区東日暮里にある飲み屋もこの本を片手に探し当てたことがある。もう
十五年くらい前だろうか、この本ではガイドブックのように店の住所が記載されていなか
った。小上がりのある末枯れた良い店だった。確か7、8年くらいまえに行ったら閉店し
ていたんではないか。
まあ、色々と役に立ち、愉しませてくれた本でした。