演出家で三島の「弟」だった人の本。有名な「ルドン」に出入りしていた著者は五歳年上の
売り出し中の作家、三島由紀夫と知り合い芸術の仕事の面でも(三島の戯曲や「憂国」の
演出を手がけた。)プライベートでも交渉のあった人。税抜き710円のわりには頁が少なく,
割高。二時間くらいで面白く読める。何故ならホモ話が面白くないわけがない。その周辺のこ
とは幾ら知っていてもスキャンダルとしての興味でしかなく三島の作品の正しい理解にはな
らないと思うが、以下の箇所は少し驚いた。
なお『愛の渇き』を献本されて読み、「あんな女がいるのかしらね」と私が云うと、「当たり
前だろう、悦子は男だよ。正樹だってあの三郎みたいな素朴で無知な身体、欲しいに決ま
っている」とぬけぬけと云った。男を女に換えて見る手法は、三島作品に多用されている。
直接聞いたものに『沈める滝』があった。成功した中間小説『美徳のよろめき』もその可能
性が高い。
全然、こんなこと考えもつかないことだった。さらに三島も著者も性の理想郷が美少年(軍服を着た
シチュエーションなら尚、いい。)と一緒に切腹をすることで、「憂国」の妻は本当は「男」であって欲し
かったという件もノーマルな人間には分からない。切腹心中の話も読んでいると気持ちが悪くなってく
る。しかし「奔馬」ではその特殊な感覚を万人の普遍的なものに昇華せしめるのだから文学とは怖ろ
しい。「午後の曳航」で本当は船乗りは少年たちに毒殺された後、解剖に処されるのだがこのラストは
割愛された。なるほど、猫の解剖が伏線として生きてくるわけだが反社会的すぎるかもしれない。
著者は三島同様、危険な情緒に親しみながらも結婚もして孫までいる。江頭2:50のお父さん
もホモらしい。そんなに珍しい性癖ではない。三島も踏み止まって生きていれば良かったのにと思う。