Montreux's Theme (2003 Remaster)

 

 

 

プログレッシヴ・ロックバンドのイエスが、1977年にリリースしたアルバム『究極』(Going for the One)のボーナス・トラックから、珠玉の小品。2003年のリマスター再発ではイエスの各アルバムに多くのボーナス・トラックが追加収録されて話題になりました。『究極』では正規アルバム未収録曲が3曲、そしてリハーサル(アーリー)・バージョンが4曲と、合計で7曲のボートラが収録されました。

 

その中でも、私が一番好きなのがこの「モントルーのテーマ(Montreux's Theme)」です

 

 

 

 

2分30秒くらいのとても短い楽曲ですが、スティーヴ・ハウ(ギター)、クリス・スクワイア(ベース)、アラン・ホワイト(ドラムス)の「魅力」を簡潔に、でも、豊かに表した良い出来になっていると思います。(フロントマン、ジョン・アンダーソンはサイド・ギター担当です。なぜかリックの鍵盤楽器、らしき音はかなり小さいです)

 

今はちょうど梅雨明けの時期ですね。この「モントルーのテーマ」は雨上がりの薄曇りのお天気から、徐々にうっすらと陽光が顔をのぞかせはじめる・・・という風情がありますね。イギリス人がスイスでレコーディングした楽曲なのに、日本の梅雨明け時に合うと感じるのは、私が海外に一度も行った事がない日本人だから、でしょうか。

 

ジャジー、というかスティーヴ・ハウ節の純度の高いナチュラルなギターに、クリスの硬質なベースが意外と優しいニュアンスで寄り添います。アランのドラムスは前半はとても控え目で。

 

そして曲は徐々に活気が増して行きます。不純物を感じさせないギター、ベース、ドラムスの饗宴は、一瞬だけ雲間から閃光を放つような陽光のきらめきのように。個人的にはアラン・ホワイトのドラムスの「繊細さ」と「瞬発力」、そして「バランス感覚」をとても感じる楽曲で、こういう「後のミキシング・大争奪戦」があまり加わっていないトラックでのアランのドラマー、音楽家としての実力を「さりげなく」感じる1曲です(アランはかなり過少批評されているドラマーですよね。いつかそれについては書きたいです)。この感じで5分か8分くらい聴いていたいけれど、2分30秒くらいの「きらめき」が良い余韻を残してくれるのかなあ・・・(この曲を1回聴くと、続けて3回はリピートして聴きます、、)

 

 

 

 

この3曲のボートラのうち、ネットなどでは、この曲の方が人気が高かったようです。

 

Vevey (Revisited) (2003 Remaster)

 

 

アルバム『究極』のレコーディングが、とても良好だった事をイメージできる楽曲のようにも聴こえてきます。スイスの小さな教会で、名もなきオルガニストが、名もなきハープ弾きと一緒に、仲良く、ゆったりした贅沢な「日常のひととき」を奏でているかのような、穏やかで、楽園のような音楽・・・。次作『トーマト』では、この世界的に有名な鍵盤奏者と、この曲では演奏していない世界的に有名なギター弾きは、熾烈な主導権争いという仁義なき戦いに立ち向かった結果、鍵盤奏者が2度目のイエス脱退をします。この曲の世界的に有名なイエスのフロントマン&ハープ弾きと一緒に。イエスとは「チャンスも経験も、仁義もへったくれ」もいらない、何かを極めた道を歩む人たちの闘技場なのです。(以下で詳述)

 

 

 

アルバム『究極』は、私にとっては中学2年の時に、初めてイエスを大好きになった大切なアルバムです。最初に聴いた時には「とてもこの世の、現実の、生身の人間が作っている音楽だとは思えない!なんという美しくも神々しい音世界なんだろう!!!」と大感激したものでした。

 

邦題・イエス「悟りの境地」

Awaken (2003 Remaster)

 

 

 

当時の私はリッチー・ブラックモア命のギター少年で、ディープ・パープルとレインボウの楽曲をひたすら聴き、ギター(ストラト)でひたすら弾くような毎日でした。しかし、イエス『究極』にノックアウトされて、以後順番に『危機』『クラシック・イエス(ベスト盤)』『こわれもの』『イエス・ソングス(ライヴ)』と聴き続けていくうちに「リッチー命」の比率が、「スティーヴ・ハウ命」に傾いて行く事になりました。

 

さて、私がイエス『究極』を大好きになった理由の一つとしては、とても壮大で、奥深く、幻想的な「音世界」だという印象を受けた事が大きかったです。それは、元々の楽曲や演奏の素晴らしさに加えて、実はもう一つ大きな理由がある事を、かなり後になって知りました。

 

全盛期のイエス、まあ1970年代になりますけれども。当時のイエスのレコーディングというのは、笑える話、笑えない話、腹筋が崩壊するくらい爆笑が止まらない話の宝庫なのです。つまり、アルバム制作においては5人のメンバーの個性と思惑が、大いに入り乱れて、大いに爆発するのです。つまり、イエスはレッド・ツェッペリンのようにメンバー同士の関係が良いバンドではないのです。何が言いたいかというと、

 

イエスは音楽性の意見の衝突エピソードだけではなく、個人のエゴや痴話ゲンカ、怒鳴り合いや、時には殴り合い、時には常軌を逸した発言・行動(特に約1名のフロントマン)、大遅刻、大早退、そしてやっぱり金銭に関するトラブルなど・・・が非常に多い、誰か(バトリック・モラーツだったか)の発言を借りれば「エゴのかたまりの集団」なのです。

 

な~にが「神々しい音楽」だ? な~にが「壮大な幻想的な音世界」だ? と、こちらが大声で叫びたくなるくらい、実に「人間味」のあるロック・バンドなんです。だから、逆に1990年代後半あたりからイエス本をいくつか読むようになって、私はイエスの「第2の魅力」の虜になりました。伊藤政則が大昔に出版したイエス本のタイトルは、確か「神々の饗宴」だったと思います。しかし、90年代後半頃から出版されたティム・モースやクリス・ウェルチらによる「イエス本」の中身は「俗物たちの饗宴」というタイトルがふさわしいとしか思えない内容です(もちろん大真面目な音楽創作のエピソードも満載です、とフォローはしておきます)。とにかく読んでいて面白すぎて、こんな形で私は「イエス再入門」を果たす事になりました(当時リリースされた新譜『ラダー』(1999年)の出来が予想を遥かに上回って良かったのでイエスに再び関心が戻ったという事も理由の一つですが)。

 

特にティム・モース『イエス・ストーリー』という本の、アルバム『危機』『海洋地形学の物語』のあたりを大阪の書店で立ち読みしていたら、笑い声を我慢することができず、書店内では必死で笑い・爆笑を抑えながら、その本を買い、電車の中では本の中身を一切見ず(もし見てしまったら電車の車両にはいられなくなります)、ついに到着した自宅で一気に読んで、もう、ひたすら笑い転げました。あんなにも爆笑した「読書」体験は後にも先にも、記憶にはありません。(なんだか話を盛っているように感じられるかもですが、本当にこんな感じで大阪の書店から自宅まで、笑いを我慢して帰りました)

 

 

我こそは、ジョン・アンダーソンである。

 

 

 

アルバム『究極』に戻ります。

 

そんな、俗物・・・、いや、非常に人間味が豊かすぎるイエスの各メンバーたち。でも10年に1回くらいは、奇跡的にレコーディングが楽しく、仲良く、笑顔で、みんなで協調しあって、勿論(人間味があふれているから)金銭的にも満足して、凄く良い感じで作る事ができたアルバムというのもあるのです。それが、アルバム『究極』です。

 

 

じっと見つめていると、とても仲の良いバンドに見えてきます(^^

 

 

アルバム『究極』は、イエスの全盛期の最後の名作とされる事も多いと思います。全盛期が『ドラマ』(1980年)まで続いていたという意見に対しては、私は肯定的ですけれども、特にジョンとリック、そしてハウの3人の音楽的な素養・資質と、人間関係が上手く行ったという点では、アルバム『究極』は「究極に奇跡的」なアルバムだと思います。

 

 

 

ボートラ3曲目はクリス・スクワイアによるベース・ソロでの「アメイジング・グレイス」

 

Amazing Grace (2003 Remaster)

 

 

実に人間味に溢れたソロ・ベースだと思います。原曲は深い哀愁を感じさせる楽曲ですが、レコーディング風景を想像すると、なぜか多幸感さえ感じてしまいます。独特の「遠吠え」のようなトーンがたまりません。

 

 

 

※ 「悟りの境地」アーリー・ヴァージョンが「東洋の楽曲」というタイトルなのが、非常に嬉しく楽しい、、

 

 

 

さて、私が当ブログを始めて、早いもので約1年ちょっとになりました。当初はイエスとパット・メセニーのアルバムや楽曲レビューに徹するつもりで始めておりました。というのもイエスは結成50周年を迎えたものの、イエス本体は伝統芸能を細々と継承しているかのような、風前の灯のような状況で。そして、パット・メセニー(グループ)にとっては、昨年はメセニーの「永遠の相棒」であった、ライル・メイズがこの世を去るという大きすぎる出来事がありましたから。

 

だから、私にとって最も長い期間に渡って人生の傍らにいてくれた、イエスとパット・メセニー(グループ)については、「今のうちに自分が語りたい事を、どんな形でもいいから語っておきたい!」という焦燥感がありました。そうして、自分にとっては初めて開始した当ブログでしたが、当初の思惑からは(けっこう)外れて、あまり関連性のない事柄を散発的に書き散らしてきた感じにもなってきております。でも、基本的にはこのスタンスの方が、色々と自由に書けるので、これからもこんな感じでやって行きたいと思います。

 

で、1年を振り返ってみて気付いた事がありました。イエスの事をメインに書くつもりだった当ブログ。今まで書いてきたものを見返していて1つ気が付きました。『海洋地形学の物語』の楽曲の、一部分(5分ほど)だけをタイトルにしてみたり。スティーヴ・ハウの「ギター」と「歌声」についてだけ書いてみたり。今回も、アルバム『究極』の中身ではなく、ボーナス・トラックの3曲についてだったり、、という感じで、レギュラー・アルバムの中の正規の「1曲」を記事タイトルにした事が一度もなかったのです。

 

 

という事で、アルバム『究極』の中から、もう1曲取り上げておきます。

邦題「不思議なお話しを」 シングル・レコードとして結構ヒットしました。

 

Yes - Wonderous Stories (Official Music Video)

 

 

やっぱり、とても仲が良いバンドに見えてきます。不思議!

 

 

 

 

 

 

 

◇追記

 

ブログを始めて約1年。自分が今まで音楽を聴いてきて、自分の「核心」のような音楽ほど、ブログという形態の中では非常に語りにくいと感じた1年でもありました。ブログのタイトルとしても使わせいいただいている、イエス『海洋地形学の物語』や、パット・メセニー、マイク・オールドフィールド、あとはモンゴメリ作「赤毛のアン」や、歴史、文化財(も少々)に関してなどは、それなりに語れた手応えもありましたが、、

 

2年ほど前に自分のフェイバリット・ミュージック10選を、ノートにさらっと列記した事がありました。よく聴いた回数や、気楽にいつも聴いているという音楽ではなく、自分の「音楽人生」と「実人生」に大きな影響を受けたものだけを選びました。結果的に13選になりましたが、本当に迷いなく13の「音楽」を選ぶことができました(下では16タイトルを列挙)。中学生で衝撃を受けた、もうどこにも逃れられない原体験。高校生から二十歳くらいまでの、自分の「核」を死守する事に必死だった「緊張」の時期。そして、その直後の「緩和」の時期。三十代からは5~10年単位で人生の出来事と音楽的触発・救いが何度かありました。

 

選んだ16作は、わりと「その筋」では名の通った「名作」が多く、私もけっこうな俗物なのかもと思いました。50選、100選まではすんなり選べそうです。500選なら同じアーティストのアルバムを10作くらい列挙という感じになるかな?

 

これから、下記の16タイトル、および、その周辺について、書くならば「かなり深く」なるか、「書けない」の、どちらかだと思います。どうなる事やら、、

 

 

◇1  13歳

クイーン 『クイーンⅡ』

Queen - Father To Son (Official Lyric Video)

 

(以前に投稿したので、割愛)

 

 

◇2  14歳

ディープ・パープル 『ディーペスト・パープル』(ベスト盤)

Deep Purple-Burn

 

 

 

◇3  14歳

ピンク・フロイド 『ウマグマ』

A Saucerful Of Secrets (Live) (2011 Remastered Version)

 

 

 

◇4  14歳

イエス 『究極』

Awaken (2003 Remaster)

 

(本稿に投稿したので、割愛)

 

 

◇5  17歳

マイク・オールドフィールド 『オマドーン』

Mike Oldfield - Ommadawn Full Album

 

(以前に投稿したので、割愛)

 

 

◇6  17歳

エニド 『秘密の花園』

The Enid - Aerie Faerie Nonsense (Full Album) (2010 remastered)

 

 

 

◇7  18歳

イエス 『海洋地形学の物語』

The Revealing Science of God (Dance of the Dawn) (2003 Remaster)

 

 

They move fast, they tell me,

But I just can't believe they really mean to

There's someone, to tell you,

And I just can't believe our song will leave you

 

 

◇8  19歳

ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター 『ポーン・ハーツ』

Van Der Graaf Generator - Pawn Hearts [Full Album]

 

 

Van der Graaf Generator - Pawn Hearts (1971) FULL ALBUM Vinyl Rip

 

 

Camps of panoply and majesty

What is Freedom of Choice?

Where do I stand in the pageantry

Whose is my voice?

 

It doesn't feel so very bad now

I think the end is the start

Begin to feel very glad now

All things are a part

All things are apart

All things are a part

 

 

 

 

 

 

◇9  21歳

ハットフィールド&ザ・ノース 『ハットフィールド&ザ・ノース』

Son Of 'There's No Place Like Homerton'

 

 

 

◇10  22歳

ジェントル・ジァイアント 『プレイング・ザ・フール』(ライヴ)

Gentle Giant - Playing the Fool (1977) FULL ALBUM Vinyl Rip

 

 

Just the Same (Live)

 

 

 

◇11  22歳

パット・メセニー・グループ 『オフランプ』

Pat Metheny Group - Are You Going With Me?

 

(以前に投稿したので、割愛)

 

 

◇12  22歳

吉沢秋絵 「鏡の中の私」

 

 

吉沢秋絵 【鏡の中の私】1986年 

 

 

 

◇13  35歳

中島みゆき 『あ・り・が・と・う』

 

ホームにて

 

(参考・カヴァー)

【Live】手嶌葵「ホームにて(中島みゆき)」2012

 

 

ホームにて - 中島みゆき (Cove 手嶌葵) Sub Thai

 

 

 

◇14  40歳 (初めて聴いたのは17歳)

ガブリエル・フォーレ 『レクイエム』

Faure Requiem/4 - Pie Jesu (ああ、イエズスよ)

 

(最近に投稿したので、割愛)

 

 

◇15  41歳 (初めて聴いたのは20歳代)

村治佳織 / Sunburst (A.York)

 

 

 

 

 

◇16  50歳

コトリンゴの何かの曲(8月に投稿予定)

 

 

 

2021年 現在に至る