HIDEKI SAIJO July Morning Korakuen Stadium '80

 

 

 

July Morning H☆

 

 

 

 

日本歌謡界が誇る歌手、西城秀樹さんの洋楽カヴァー曲「ジュライ・モーニング」です。原曲はイギリスのロック・バンド、ユーライア・ヒープ(URIAH HEEP)の「七月の朝(JULY MORNING)」という曲です。

 

このテレビ放映バージョンは1980年の後楽園球場でのコンサートの模様ですね。当時の西城さんの人気の凄まじさが窺い知れます。洋楽の日本語歌唱なのですが、まるで当時の西城さんのために作られた「新曲」のように、日本語の語感と、楽曲の良さと、西城さんの歌がかなりハマッています。それにしても西城さん、凄くカッコイイですね。

 

私が小学生の時に最初に強く「ロック」を体験したのは西城秀樹の歌だったかも知れません。私と同世代の方なら、同じように思われる人も多いのではないでしょうか。当時の日本の歌謡曲の中でも、洋楽ロック的なカッコ良さでは、西城さんは際立った存在感がありました。ルックスも、スタイルも、ステージ・アクションも、そして歌唱も日本の歌謡曲の枠には収まらない、ワイルドさ、セクシーさ、スター性・・・、何と表現していいのか分からないけど、とにかくカッコ良かったですね。ツェッペリンのロバート・プラントの日本版とでも表現したくなるほどに。

 

 

こちらの方はライヴ・アルバム・バージョンです。

 

西城秀樹 B4 July Morning from BIG GAME HIDEKI '80

 

 

最初のMCからして雰囲気がありますね。ライヴ・レコード版だから、西城さんの歌唱力の凄さと、バックの演奏もじっくりと聴く事ができます。演奏の方は原曲のユーライア・ヒープにけっこう近い演奏ですね。ブラスやコーラスも入ってさすがに豪華な演奏です。イントロのオルガンやラストのシンセの演奏と音色はケン・ヘンズレーぽいし、ギターのトーンも重すぎない歪み方でミック・ボックスぽく、ヒープの原曲を意識した所があって、原曲のファンでも聴きごたえがあると思います。そして西城さんの歌とこの曲の相性は抜群です。洋楽の日本語歌唱なのに、日本の歌謡曲テイストが、ちょうど良い具合に感じられます。そして、やっぱりハイトーンで「ラーア、ラーア!」と歌う所は、西城さんの「傷だらけのローラ」の「ローラ!」の絶唱を連想してしまいますね。

 

そもそも、この曲の原曲のユーライア・ヒープ「七月の朝」は、日本でかなり人気のある曲でした。日本人の琴線に触れるメロディー、節回し、曲展開をしていた曲だと思います。

 

 

こちらが原曲です。ユーライア・ヒープ「七月の朝」

 

URIAH HEEP JULY MORNING 1972

 

 

ユーライア・ヒープは、1970年代の世界四大ハード・ロック・バンドの一角として数えられる事が多いです。「二大」ならレッド・ツェッペリンとディープ・パープルが。「三大」ならそこにブラック・サバスが入るでしょう。日本で「四大」となると人気面ではユーライア・ヒープが入ると思います。アメリカならグランド・ファンク・レイルロードかブルー・オイスター・カルト、マウンテンあたりが入りますかね。

 

七月になった時に、なんとなくヒープの「七月の朝」を聴いておりました。ちゃんと聴いたのは10年以上ぶりでした。久しぶりに聴いてみた印象は、「この曲って日本の歌謡曲に似ている」でした。適度に湿度があって、適度に情緒があって、泣きの歌唱やフレーズが連発します。イントロのオルガンこそバロック音楽ぽいですが、デヴィド・バイロンの歌が始まった瞬間に「昭和の日本歌謡曲」の世界にトリップしたような感覚になりました。

 

ツェッペリンやパープルに比べると、ヒープの音楽は、より抒情的で、情緒的で、あまり突き抜けていないハードさ、奥ゆかしさがありました。四作目の『悪魔と魔法使い』などは、ロジャー・ディーンの幻想的なレコード・ジャケットとも重なって、抒情派プログレッシヴ・ロック的な要素もありました。

 

「七月の朝」が収録されているユーライア・ヒープのサード・アルバム『Look at Yourself(邦題「対自核」名邦題!)(1971)の各国チャート最高位は

 

日本・5位(オリコン) ノルウェー・14位 全英・39位 全米・93

 

です。アメリカではまだ無名、本国イギリスでも大ヒットしていなかった頃に、ヒープは日本でオリコン5位まで上りつめています。オリコンLPチャートで19週トップ100入りしたらしいので、まるで演歌のような息の長いヒットを日本で記録していたんですね。

 

ヒープの「七月の朝」を久しぶりに聴いたときに、この曲はクリスタル・キングか西城秀樹あたりがカヴァーしているんじゃないかな? と思いました。歌の節回しとハイトーン・ヴォイスからその両者を連想したのですが、西城さんの見事なカヴァー・バージョンを聴けた時は「ヒデキ、感激!」でしたね。

 

 

「七月の朝」の楽曲構成には大きな特徴があります。歌のパートは前半に重点があって、後半は延々と長いリフ(テーマ・メロディー)が繰り返されるという点です。1970年前後のロックでは短い歌を、後半にメロディーやリフの繰り返しを付け足して、710分くらいかけて演奏するというパターンが多く見られます。代表的なのはビートルズ「ヘイ・ジュード」でしょう。歌は前半で一段落して、後半は「ラーラーラー、ラララッラー」の延々とした繰り返しです。レーナード・スキナード「フリー・バード」や、グランド・ファンク・レイルロード「ハート・ブレーカー」も似たパターンです。プログレではキング・クリムゾンの「スターレス」が有名ですが、あの曲の後半部分は独立した別の曲としてのクオリティーがありますね。

 

「七月の朝」は単純なリフの繰り返しでなく、ちゃんとしたメロディーを曲の後半に延々と繰り返す所に大きな特徴があります。それも情緒的なマイナー・スケールで作られた、よく練り上げられたメロディーを繰り返す所に、日本人の音楽的感性に響く何かがあったような気がしてなりません。

 

「七月の朝」の後半に繰り返される演奏を聴いていて、とてもよく似たメロディー(長いリフ)を持った曲を1曲連想しました。ドイツのキャメルとも呼ばれた抒情派バンド、ノヴァリスのこの曲です。

 

Wunderschätze

 

 

Novalis(ノヴァリス)の、こちらもサード・アルバムですね、『Sommerabend(邦題・過ぎ去りし夏の幻影) (1976)A2曲目 Wunderschätze(邦題・不思議な宝物)」です。

 

綺麗なアルバム・ジャケットの多いプログレ系の中でも、最も美しいジャケットなのではないでしょうか。中身の音楽も素晴らしいです。梅雨の時期に聴くと、この曲の清涼感に癒されます。キャメルより演奏も歌もあまり技巧的ではないけれど、瑞々しい情感を素直に表現した良い曲ですね。前半は当時のノヴァリス節そのままに、クリムゾンやEL&Pでグレッグ・レイクがギター弾き語りをしていた楽曲のような趣きです。ドイツ語の歌詞は詩人・ノヴァーリスの詩をそのまま歌っています。グレッグ・レイクの曲は実にヨーロッパ的な厳かで麗美な歌唱が多いですが、それに対してノヴァリスは、ドイツ語の固い響きが逆に素朴な語りのような「詩吟歌唱」になっていて、こちらも「七月の朝」と同様に、日本人の琴線に触れるようなメロディーと歌い回しだと思います。ユーライア・ヒープやノヴァリスのようなアーティストたち、そして日本で非常に人気があるイタリアン・ロックなどは、日本の歌謡曲と類似点をもっと探せるように思いますね。イギリスやフランスは日本と違う点が多いのも、また面白いです。アイリッシュやブルターニュにケルト音楽があるからなのか・・・今後の課題です。(日本音楽とは音階構造が違いますね、トラッドでも7音階の長調が多くて)

 

ノヴァリス「不思議な宝物」は、11分近くもある長い曲なのですが、ラスト3分は「七月の朝」のように長いリフのような、マイナー・メロディーの繰り返しです。ノヴァリスはこの曲を、前半はグレッグ・レイク的に展開して、ラストはユーライア・ヒープ「七月の朝」の後半を付け足すような意図で構成したのでは? と思ってしまいました。

 

ドイツ・ロマン派の詩人、ノヴーリス(筆名)をそのままバンド名にするなんて実に素敵ですよね。ドイツにはヘルダーリンというバンドもありました。日本なら宮沢賢治にあやかって「MIYAZAWA」とか(YAZAWAのファンからクレームが来そうですね)、中原中也にあやかって「中原」という詩的なバンドの一つでもあればなあと思います。私が知らないだけで、そういうバンド、日本にありますかね?

 

 

 

西城さんはとても多くの洋楽カヴァーをしておられます。代表的なのはヴィレッジ・ピープルの「YMCA」ですよね。洋楽の色々なジャンルを歌われています。海外の音楽が好きなうえに、カヴァーに対する西城さんのこだわりも凄いものがあります。ロッド・スチュワートが「キープ・ミー・ハンギング・オン」をカヴァーしているのに触発されて「それなら俺も」と思った心意気が良いですね。西城さんが洋楽カヴァーにこだわる理由を述べられている下記の言葉は、本当にカッコイイです。

 

 

西城秀樹

「日本語をロックにのっけるっていうのは、当時やったヤツがいなかった。あれで若い子たちが『あ、日本語でロックをやってもいいんだな!』と思ったんじゃないかな。プロでも音楽理論を知ったかぶりするような評論家的なヤツらがいたんだけど、そういうヤツに限って、例えばロック系ならポップスを全然聴いてなかったりしてね。本質を知らないんだよ。僕はポップスもロックも一緒だと思ってる。歌謡ロックや歌謡ポップス、歌謡ヘビーメタルがあったっていいじゃない」

 

音楽ジャンルというのは、音楽を分類するための便宜的な目安か、もしくは狭い世界の中で利権や上下関係を維持したい人たちによって作られた縄張りのような所があります。そういうジャンルの垣根を越えて、自分が本当に歌いたい歌をコンサートで率先して歌っておられた西城さんは、日本の聴衆に「音楽にジャンルや国境なんてないんだ」という、ジョン・レノンらが提唱していた事を、制約の多い日本の歌謡界で自ら実際に行っておられたんだと思います。

 

日本歌謡界において、洋楽カヴァーの第一人者である西城秀樹さんのカヴァー曲の概要は、とても私にはできませんが、プログレやハード・ロックあたりで、私がなじみの深い曲をあと3曲挙げていきます。

 

 

キング・クリムゾンの「エピタフ」も歌っておられます。

 

Hideki Saijo - Epitaph

 

 

やっぱりグレッグ・レイクは偉大ですね。なぜか日本歌謡と凄く親和性があります。私の友人で、「エピタフ」をほぼ演歌として聴いている友人がおりますけれども。サビ部分の絶唱は秀樹節になっているのが流石です。原曲リスペクトを感じる演奏も良いですね(あとはメロトロンがあれば、もっと最高、、)。この曲では西城さんは、ちゃんと英語で歌っているのが凄いですね。ピート・シンフィールドに印税は行っているのでしょうか。

 

 

レインボウの「アイズ・オブ・ザ・ワールド」は、私的には感激!の一曲

 

HIDEKI SAIJOEyes Of The World」 Korakuen Stadium '80

 

 

 

西城秀樹 A1 「Opening~Eyes Of The World」 from BIG GAME HIDEKI '80

 

 

 

こちらも1980年後楽園球場のバージョンですね。中学生の時に自分のバンドでこの曲をどれだけやりたかった事か(ドン・エイリーくらい弾けるキーボードと機材がないと・・・)。これは日本語歌唱ですが、西城さんの持ち歌かと思うくらいに歌いこなしておられます。1980年かあ、当時に観ておきたかったなあ。レインボウ『ダウン・トゥ・アース』からは「ロスト・イン・ハリウッド」も歌っておられます。どちらを取りあげるか迷ったくらい、そっちも良かったです。

 

 

最後に西城さんの歌唱の凄さを感じた曲を

 

Dont Stop Me Now Hideki Saijo1979 西城秀樹

 

 

クイーン「ドント・ストップ・ミー・ナウ」です。日本でも社会現象にさえなった、映画『ボヘミアン・ラプソディー』のラストシーンでも使われたクイーンを代表する1曲です。凄いですね、この西城さんの歌唱は。フレディーに負けていないと思います。この曲はクイーンの中でも難易度はかなり高い曲だと思います。西城さんのシンガーとしての実力を見せつけられますね。ただ単に声量と歌唱力だけで歌える曲ではなく、本物のパフォーマーだけが歌える曲だと思います。秀樹の歌、として完璧に自分のモノにしておられます。

 

 

 

残念なことに、西城秀樹さんは2018(平成30)516日に、この世を去られました。享年63歳の早すぎるお別れでした。脳梗塞を患われてからは懸命にリハビリをされていた姿も印象に残っております。西城秀樹さんの、もう、ひたすら『カッコイイ』としか表現のしようのない歌声とパフォーマンスを、幼い頃に体験できた事は、私たちの世代にとって大きな宝物だと思っております。