イエス 『時間と言葉』(Time and a Word1970

 

全英45位 全米圏外

 

A

1. No Opportunity Necessary, No Experience Needed 〔4:47(Havens) リッチー・ヘイヴンスの「チャンスも経験もいらない」のカヴァー曲。

2. Then 〔5:42(Anderson)

3. Everydays 〔6:06(Stills)バッファロー・スプリングフィールドの「エヴリデイズ」のカヴァー曲

4. Sweet Dreams 〔3:48(Anderson - Foster)

 

B面​

1. The Prophet 〔6:32(Anderson - Squire)

2. Clear Days 〔2:04(Anderson)

3. Astral Traveller 〔5:50(Anderson)

4. Time and a Word 〔4:31(Anderson - Foster)

 

 

イエスのセカンド・アルバム『時間と言葉』(Time and a Word)は、196911月から 19701月にかけて制作され、19707月にリリースされました。この間の経緯がちょっとゴタゴタしております。

 

まず、ギタリストであるピーター・バンクスの脱退(事実上の解雇)がありました。ジョン・アンダーソンがピーターに解雇を告げたのは418日だったので、アルバム『時間と言葉』完成の約3か月後、リリースの3か月前という事になります。この間にイエスは後任のギタリストとして、キング・クリムゾンのロバート・フリップをイエスに誘いますが断られます。そして、トゥモロウなどで活躍していたスティーヴ・ハウを後任ギタリストとしてイエスに向い入れます。

 

アルバム制作からリリースの頃に、ロック・シーンにおいて大事件がありました。キング・クリムゾンの華々しいデビューと、その後の成功と称賛です。特に有名なこの曲は、多くの人々に衝撃を与えました。

 

21St Century Schizoid Man (Including Mirrors)

 

 

19691010日に『クリムゾン・キングの宮殿』(In The Court Of The Crimson King)は、リリースされました。イエスがセカンド・アルバムのレコーディングを行なう直前というタイミングでした。

 

ピーター・バンクス、キング・クリムゾンの衝撃を語る

「〔訳注:イエスのファースト・アルバムに〕満足できなかったもうひとつの大きな理由は、キング・クリムゾンのデビュー・アルバムが同じ頃にリリースされて、それを聴いた僕らが打ちのめされたからなんだ。あっちはイエスよりあとに結成されたんだよ。(中略)〔訳注:彼らの演奏を聴いて〕みんな、言葉を失ったね! あの頃、僕らはイエスがとてもクールなバンドで、自分たちにかなうバンドはいないと思っていたんだ。(中略)凄い衝撃だった。完全にノックアウトされた。そのうち出たファースト・アルバムを聴いたら、僕らのよりはるかにいいじゃないか。とてもかなわないと思ったよ。クリムゾンのアルバムは、こっちと違って凄く良くできていた。イエスは撃沈ってとこさ。」(マーティン・ポポフ『イエス全史』51)

 

クリムゾンに対する当時の衝撃は、ピーターのこの発言がよく言い表していると思います。ジョンはあまりの悔しさに涙を流し、イエスが少しでもクリムゾンに近づけるバンドになれるようにイエスの独裁者になる決意をします。またビルはいつかクリムゾンに加入したいと別の意味で発奮する事になります。

 

 

そんな、ファースト・アルバムが売れなかったイエスにとって、次の勝負曲がこれでした。

 

Yes - No Opportunity Necessary, No Experience Needed

 

 

これは生演奏のプローション・ビデオですが、レコード・バージョンでは大きくフューチャーされているオーケストラは、こちらには入っておりません。当時のイエスの等身大の実力を観る事ができます。仰々しいオーケストラによって過大に装飾されたレコード・バージョンよりも、こちらの方が私は好きです(あの仰々しい爽快さも良いですけどね)。オーケストラ抜きの生演奏の方が、初期イエスのラフなジャムセッションの良さと、疾走感がストレートに堪能できると私は思います。

 

特にクリスの独特のベース・ラインが光っていますね。ラッシュのゲディー・リーがクリスのこの曲でのベース・プレイに驚嘆したと言っています。トニー・ケイのオルガンも躍動的で初期イエスでは確かな存在感を示していました。5人で奏でるロック・オーケストラを目指していたイエスとしては、この曲はカヴァー曲とはいえ、イエスの持ち味をかなり発揮できていると思います。ファースト・アルバムではプロデューサーの力量不足もあってか、当時のイエスらしい溌剌としたバンド・アンサンブルと、三声のコーラス・ワークの魅力を十分には発揮できなかったとメンバーらは言っております。それらの心残りだった点は、少なくとも1作目よりは大きく向上・改善されていると、2作目『時間と言葉』において確かに確認できます。

 

これは、完全な私見なのですが、もしもピーターが解雇されずにイエスに在籍したままでも、このまま3作目、4作目とアルバムをリリースして行けば、イギリスの中堅のバンドとしてはそれなりの成功を果たせていた気がします。イエスは次作の『サード・アルバム』で全英4位という念願のヒットを果たし、全米でも初めてチャートインして40位まで上りつめ、世界的にも注目され始める結果を残しました。

 

でも、オリジナル・メンバーでのイエスのままでも、クリスとビルのリズム隊はロック界屈指の実力と独創性をすでに備えており、トニーのオルガン・プレイも十分にイエス・サウンドを彩るほどの実力と個性があります。ピーターはピート・タウンゼントのスタイルをベースにした、ロック魂の塊りのようなエネルギッシュなプレイながら、ジャズ的な奏法も得意としており、イエスの成長とともにさらに成長できる「伸びしろ」もあったと思います。そして、フロントマンとしてのジョンが後に発揮する個性的なヴォーカル・スタイルと、独自の(人間離れした?)世界観の半分でも発揮できていたら・・・。何もかも仮定の話になってしまいますが、あくまでも「中ヒット」で食いつないで行く中堅バンドとしてならば、というお話しです。

 

しかし、現実的にはイエスはアトランティックという大きなレーベルから「ヒットを出さなければ次のアルバムの制作資金を出してもらえない」というくらいに資金と、その見返りとしての結果を期待されていたバンドでした。だからクリムゾンの登場によって、一気にロック界の音楽的水準が引きあげられた1969年末に、オーケストラの導入という決断を下します。その方針を決定したのは、後に「ナポレオンの爪を持ったヒッピー」と呼ばれるほどに、イエスを主導していくジョン・アンダーソンでした。(クリスの同意もあったようです)

 

アルバム『時間と言葉』において、イエスは楽曲の装飾効果のためにオーケストラを導入しました。同時代ではナイスでキース・エマーソンが卓越した演奏をしていたパートを。また、後にイエスでリック・ウェイクマンがモーグ・シンセサイザーなどで多彩に装飾していく事になるパートを早く手に入れたいという思惑があったのでしょう。その試みは上手く行った点もありました。しかし、イエスというバンドの本質と噛み合わない点の方が大きかったように思います。ジョンが連れてきたトニー・コルトンというプロデューサーは、必ずしも他のメンバーにとって快い存在ではなかったようです。特に音楽的な面でも人間的な面でも、ギターのピーター・バンクスはと相性が悪かったようで、結果的にピーターのギターの良さが発揮できていないアルバムになってしまいました。ピーター脱退の大きな理由になったのが、トニー・コルトンとの確執とされています。アルバムの録音が終わって、完成した音源を聴いたときにピーターは愕然としました。自分が演奏したギター・パートの多くの部分が削除され、その代わりにオーケストラがピーターのギター・パートを埋めるように収録されていたからです。

 

イエスが成功するためにはピーターの資質や実力では限界があると、ジョンやクリスが考えていた節もあります。そして、ロバート・フリップにイエス加入を依頼したというように、ジョンやクリスらの焦りも相当に大きかったとは思います。セカンド・アルバム『時間と言葉』は、そんな時代状況の中で、イエスの生々しい人間模様が反映された所が垣間見れるアルバムとして、後世にその姿を残しています。イエスの良い部分、まだ足りない部分、各メンバーの思惑などが交錯しつつも、この時点で「イエス・サウンド」として傑出したものを聴き取れる佳曲も何曲かあります。

 

その中の1曲は、まずはこれでしょう。

 

Then (2013 Remaster)

 

 

初期イエスがレコードとして残した名曲を1曲だけ挙げるとすれば、この曲が挙がる事が多いのではないでしょうか。イエス・サウンドはこの時点で一旦は完成していたと考えている人もいます。特に黒田史郎氏は『サード・アルバム』よりも、この「ゼン」を含む『時間と言葉』のA1.2.3曲を初期イエスの代表曲として挙げています。

 

 

イエスの1回目の収穫期は2枚目のアルバム「タイム・アンド・ワード」だ。歌と演奏の構築美を打ち出した点に、若々しい実りを認める事が出来る。イエスの結成のポリシーがここにはある。A面の冒頭から3曲はそれを十分に証明する作品だ。(黒田史郎『イエス』280281)

 

 

イエスの作品には辛口コメントが多いビルも、こう言っています。

 

「僕は“ゼン”が好きだったね。とても素敵な曲だ。」(1994)

 

 

1曲目「チャンスも経験もいらない」が、オーケストラを過剰に使って発展途上のイエス・サウンドを過大に装飾してした曲だとすれば、2曲目の「ゼン」はあくまでもオーケストラを補助的に使う程度にとどめ、イエス本体の演奏だけでも十分に完成された楽曲に仕上がっていると思います。ファースト・アルバムの「ハロルド・ランド」あたりでは未整理だった、歌と演奏の緩急を使った劇的でスリリングな曲構成もかなり完成されてきておりますし、何よりも聴き手を引き付ける曲の良さがあります。3曲目の「エヴリデイズ」と、この「ゼン」は、最初期のイエスの楽曲としてはトニーやピーターのプレイもベスト・プレイと言っていいほどの充実ぶりです。これはある意味で『サード』以降のイエスからは一旦は影を潜める事になる、イエスのエネルギッシュな魅力だったとも言えます。

 

後にイエスで数々の美しいメロディーとギター・フレーズを生み出したスティーヴ・ハウですが、彼がイエスに加入した直後の曲はこの時期のイエスと比べると、やや淡白な演奏や曲調が多い傾向があります。スティーヴが加わった後のイエスは、完成された構築美の獲得と引き換えに、情熱的な部分はやや控えめになったところがあります。このセカンド・アルバムよりも、もう少し地に足を付けた「落ち着き」の中で、5人の歌と演奏が成熟していき「ラウンドアバウト」「危機」などの、完成度の高い楽曲に辿りつきます。しかし、その後のイエスは『海洋地形学の物語』でイエス自身を解体する過程を経て、『リレイヤー』以後は、この「ゼン」で聴けるような生々しい「動的」なスタイルと、『こわれもの』『危機』で到達した成果とを結びつけて行く事になると、私は考えています。

 

イエスは、最も初期の段階で後のイエスらしさの原型を、その核となる部分においては既に作り上げていた。ファースト・アルバムの時点では「ルッキング・アラウンド」のシンプルでポップな明るさをイエスの重要な音楽的要素として挙げておきました。それに加えて、このセカンド・アルバムでは「ゼン」で聴く事ができる「抑制を外したような生々しいダイナミズム」もイエスの重要な音楽的要素として指摘したいと思います。これ以後、まだまだイエスは貪欲に様々な要素を消化・吸収して劇的に変貌していきます。

 

 

A3曲目の「エヴリデイズ」は、「ゼン」よりもさらに静と動の対比が見事な佳曲です。

 

Everydays

 

 

イエスの全ての曲の中では、ファースト・アルバムの「アイ・シー・ユー」と並んで、けっこうジャズっぽい曲です。ビルが「初期のイエスはジャズ・バンドだと思っている」と言っていますが、あながち誇張でもない気もします。

 

ジョンのヴォーカリストとしての実力が発揮され始めているように思います。そしてビル、クリスはもちろんのこと、トニーとピーターのプレイが良いですね。一丸となった決めのフレーズからピーターのギター・ソロへと続くあたりのスリリングさは、イエスのロック・バンドとしての相当の力量を感じます。キング・クリムゾンと比べると、劣っている点があったとしても、これからの飛躍を十分に感じる熱演です。

 

 

 

Yes live: 3/12/70 - BBC John Peel show - Then (from "The Word is Live")

 

 

ピーター・バンクスがイエスを脱退する約1か月前のライヴ音源です。クリスがベース・ラインを微妙に変えてきているのが良いですね。音質は悪いけれども、若々しくて荒削りな演奏が却って魅力的でもあります。

  

 

(Part.2へ続く)