クヒオ大佐 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2009年 日本
監督: 吉田大八
 
 
宮沢りえさん主演の舞台「クヒオ大佐の妻」をWOWOWで録画鑑賞したので、その流れで。舞台の演出、映画の監督ともに吉田大八さん。時系列的にはこちらの映画の方が先です。映画の後、描き切れなかった何かを残したような気がして、その思いが「紙の月」での宮沢りえさんとの出会いにも触発されて舞台へと結晶していったようです。
 
 
実在する(恐らく現在も存命の可能性が大)伝説的な結婚詐欺師、通称クヒオ大佐(堺雅人)。純日本人ですが(映画の中では)付け鼻をして軍服コスプレをしカタコトの日本語で話しますが英語はヒアリングできません(笑)。実際のクヒオ大佐は部分整形&金髪に染めていたそうですが、黒髪のままで付け鼻、という演出で映画でのクヒオ大佐の滑稽さがより際立って演出されているようです。
 
さて、ここで改めてクヒオ大佐の主だったプロフィール(設定)をもう一度おさらいしましょう。
1、本名(ウソ)は「ジョナサン・エリザベス・クヒオ」
2、ハワイとイギリスのハーフで本人はアメリカ国籍
3、父方はハワイのカメハメハ大王の末裔
4、母方はイギリスのエリザベス女王の親戚
5、6歳でワシントン大学卒業他、日本の東大を含む世界の有名大学及び大学院をいくつも卒業している。専攻も法律、医学、科学と沢山網羅している。
6、現在はアメリカ空軍の戦闘機パイロット
7、自分と結婚すれば軍から5,000万円の祝い金が出る
8、数々の女性をだまし総額1億円以上を巻き上げた
ハイ、何度観てもツッコミどころしかありません(笑)。
 
映画には、クヒオのターゲットになった3人の女性を中心に、彼女たちとの関わりを通してクヒオ大佐とは、というものが描かれています。いずれも実力派の豪華メンバー揃いです。
 
 
クヒオ大佐の目下のメイン・ターゲット、永野しのぶ(松雪泰子)。両親を早くになくし、女手ひとつでお弁当屋の経営を切り盛りしつつ弟を育てた苦労人。美人。クヒオは軍の秘密任務と称して定期的にしのぶの送り迎え&お金で郊外の高級旅館に滞在しています。ダイアナ妃と同じデザイナーにウェディングドレスをお願いすることになったよ、などと夢のような結婚準備を着々と進めつつ、こまめにお金をせびります。キーワードは「世界平和」。
 
 
新しいターゲットは、滞在先のホテルの近くにある博物館の職員、浅岡春(満島ひかり)。同僚の高橋幸一(児嶋一哉)との職場恋愛に倦んで関係を清算したばかりですが、高橋の春への未練がましい復縁要求がしつこく、かと思えば唯一の職場の友人である理香(安藤サクラ)が陰で高橋とねんごろになっていたり。高橋演じるアンジャッシュの児島さんがいい感じに気持ち悪く(笑)、狭い職場だとこれでもモテちゃうのか・・・という不条理さに複雑な気分にもさせてくれます(苦笑)。何もかもに鬱憤がたまっていた春の前に現れた冗談のような明るい存在、クヒオ。最初は胡散臭いオッサン、と思っていた春でしたがいつの間にか一線を越え、クヒオに一途な女になっていました。が。
 
 
クヒオが”美味しいカモみっけた!”と大喜びした上玉は、銀座の高級クラブのナンバーワン・ホステス、未知子(中村優子)。一瞬、木村文乃さんかと思ったんですが違った・・・まずい、そろそろ”若くて綺麗な人は皆同じに見える”ゾーンに突入なんでしょうか(T_T)。Anyway、お金の匂いがする高級志向そうな未知子に胡散臭い投資話を持ち掛けてお金を引き出そうとするクヒオですが、あまりにも銀座の女をみくびりすぎています。未知子の方が何枚も上手。ミイラ取りがミイラ、のレベルにもならず逆にクヒオがカモられる流れに・・・。
 
 
健気な女性、しのぶはとことん男運がないというか、周囲にダメンズばかり発生させる磁場の持ち主なのか。苦労して育てた弟(新井浩文)は絵にかいたようなろくでなし(笑)。しかしさすがろくでなし、同類には敏感といいますか、一瞬でクヒオの正体を見抜いて強迫してきます。クヒオは、そのお金を工面するためになんと姉のしのぶからお金を引き出そうとする見事なあんぽんたんクズっぷり。ギャグか(笑)。
 
実在のクヒオ大佐の事件にしても、その他世間でニュースとして流れる詐欺師の犯罪にしても、なぜ騙されてしまうのかが他人には不思議。特にクヒオ大佐!いくらなんでもすでに20世紀半ばを過ぎた時代に、それ、信じる?信じたの?信じたかったの?実際にその立場になって見ない限り、分らないものなんでしょうね。自分は騙されるわけない、と思っていると思わぬ落とし穴に無意識にはまることがあるようなので、まぁそんな機会に遭遇しないで平和に生きていたい、とせいぜい祈ろうと思います。
 
 
自分、どこまで本気なん?え、もしかしたらアホなん?なハチャメチャなクヒオですが、子供に対して公衆の面前で酷い仕打ちをする男に対して咄嗟的にとびかかってしまったり。クヒオ自身の恵まれない子供時代や過去を感じさせます。後に自分が語る自分のプロフィールと、その合間にクヒオの脳裏に浮かぶ回想とのギャップが浮き彫りにされる演出もあり、「クヒオ大佐」というのは、彼自身が辛い自分のリアルから逃れるための、自分自身を騙すために作り出したファンタジーだったのかもしれない、という解釈も可能です。
 
映画の冒頭とラストに登場する、本格化する湾岸戦争におけるアメリカからの資金援助交渉を取り仕切る政府筋のエリートらしい藤原(内野聖陽)の存在も印象的です。そして、舞台「クヒオ大佐の妻」同様、映画でも最後は抽象的、象徴的なファンタジーワールドの展開。ちなみにエキストラの軍人さんたちは、ハリウッドのスタジオに集められた実際の軍経験者たちだったそうです。気合とお金がつぎ込まれたシーン!
 
クヒオ大佐という存在自体が、突拍子もなくてあまりにも特異な存在で、色んな意味で気になる、インスピレーションの源流たりえる人物。クリエイティブな活動に携わる人間が魅了されるのもしごく納得です。吉田監督の、あくなきクヒオ大佐への興味とある種の愛着を感じると同時に、戦争、戦争と日本、日本とアメリカ、もしくは人間という概念や哲学、観念を捉える際の、クヒオ大佐というのが、吉田監督にとっての抽象概念を具現化する触媒となる、一種のイメージシンボル、またはアイコンなのかもしれない。そんな風に感じました。
 
コメディタッチの映画なのかと油断していると、ラストで思いがけず難解の森に。そうなると冒頭部分も意味深で抽象的だったと思い出します。
吉田監督の伝えたかったことを最大限受け止めようと思うと中々手ごわいのですが、よくわからない部分はスルーしてギャグとして気楽に楽しむことも可能。または三者三様の女性の生きざまに想いを馳せてみるという視点もアリ。意外と複雑かつ多様性のある映画でした。楽しみカータはぁ、アナタ次第!(クヒオ大佐に敬意を表してカタコト日本語でお読みください^^)
 
 

 

クヒオ大佐 クヒオ大佐
300円
Amazon

 

クヒオ大佐 [DVD] クヒオ大佐 [DVD]
949円
Amazon