ヘンリー五世 (【劇場版】 嘆きの王冠 ~ホロウ・クラウン~) | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

2012年 イギリス

テア・シャーロック 監督

原題: The Hollow Crown: Henry V

公式サイト: https://www.hollowcrown.jp/

 

 

いよいよ、シェイクスピアの第2・史劇四部作(テレビドラマ版ではシーズン1)のクライマックス、即位したヘンリー五世の活躍、特にフランスの王位継承権を巡る歴史的な戦い、アジャンクールの戦いを中心とした物語です。

 

王子時代の放蕩ぶりはすっかり鳴りを潜めて、賢い国王として臣下の信頼と尊敬を得るようにまで成長したヘンリー五世。若いということもあるのでしょうが、活動的で頼りがいのある国王らしく、ヘンリー四世のようなローブではなく王子時代から愛用の深いバーガンディー色のレザージャケットに王冠の出で立ち。でも軽薄な表情はすっかり消えて、威厳のある顔つきに。

 

その一方で、市井の暮らしは相変わらずでもあり、変化もあり・・・。ヘンリー五世に見捨てられたフォルスタッフは、すっかりうらぶれて哀れな晩年だったようです。ボアーズヘッド亭の居室で1人ひっそりと息を引き取りましたが、もうヘンリー五世の耳には届かず。古い馴染みのクイックリー夫人(ジュリー・ウォルターズ) や間抜けな旗手ピストル、赤ら顔のバードルフらが多少心を悼めるばかり・・・ですが、それも新しい戦争と徴兵令のニュースでかき消されてしまいます。

 

ヘンリー五世の、というか彼の取り巻きの重臣たちの野望は「世界の庭園」フランス王国。遠い母方の血縁を持ち出して、自分には正統なフランス王位継承権がある、よって領土をよこせという主張をします。イングランドの黒太子との激しい戦争の記憶があるフランス国王(ランバート・ウィルソン)は警戒し悩みますが皇太子はハル王子時代の評判を持ち出し「あんな軽薄な馬鹿の相手をする必要はない」と、ヘンリー五世の元へ屈辱的な返事を送りつけます。こんな屈辱、黙っていられるか。そっちがそういう態度なら、じゃあ実力行使だ!ということでフランス遠征決定です。ヨーク公(パターソン・ジョセフ)やエクセター公(アントン・レッサー)らと共に自ら出兵します。

 

フランス王室も、ヘンリー五世を侮りすぎていましたが、ヘンリー五世もまた、読みが甘すぎたようでした。自分の領土からは海を隔てたアウェイでの戦闘、思っていた以上に手ごわいフランス軍。イングランド遠征軍たちはどんどん戦力を減退させられていきます。兵士たちも多くが命を落とし、負傷し、疲弊し、もうボロボロ。ヘンリー五世、ピンチ!

 

一方フランス軍は、それみたことかザマーミロ!と笑いが止まらない。慢心も止まらない。まだ戦いは終わっていないのに、すでに自分達の勝利を確信しています。油断大敵。そんな言葉が目の前にチラついているのにも気が付きません。大丈夫か、フランス軍。奢れる平家は久しからずってご存知か。

 

いよいよ、勝敗の行方を決定する決戦前夜。野営する兵士たちの間をお忍びで歩きまわり、自分が思っていた以上の悲惨な現状と兵士たちの不満、ダダ下がりの士気を目の当たりにしたヘンリー五世。さすがの彼も絶望的な気分になり、思わず神頼み。だが、自分は国王。責任がある。どんなに不利でもこの戦いに勝利しなくてはならない。改めて意を決したヘンリー五世の顔にもう迷いはありませんでした。

 

僅かな希望を託していた援軍も結局間に合わず、イングランド7,000に対しフランス20,000の圧倒的な人数だけでなく、体力(イングランド軍はフランスの地を踏んで以来ずっと闘い続けて消耗しきっているのに対し、対峙するフランス軍は新たに投入されたブランニュー軍隊)も装備も全てにおいて勝ち目はなさそうに見えるイングランド軍の兵士たちを前に、「我々は人数が少ないが、それは幸いである」と語りかけます。そして、後に「聖クリスピンの祭日の演説」と呼ばれる名演説をぶちかまして戦闘意欲が限りなくゼロになっていた自軍兵士たちを鼓舞します。

 

いざ戦いの火ぶたが切られてみたら、窮鼠猫を噛む、破れかぶれで後がないイングランド軍の決死の戦いっぷり。装備も粗末で身軽なイングランド兵に対して、もう勝った気になって気持ちが緩んでいた上に立派過ぎる甲冑のせいで動きが鈍いフランス軍。圧倒的な戦力の差にも関らず、結果はイングランド軍の大勝利。フランス軍が半数以上を失ったのに比べて、イングランド軍の死者は僅か30人にも届かないという奇跡的な戦果を残した、アジャンクールの戦いは歴史に刻まれることになりました。

 

勝利を収めたヘンリー五世はイングランドに凱旋し、およそ一年後、ブルゴーニュ公(リチャード・グリフィス)の立ち合いでフランス国王との和平交渉のために再びフランスを訪れます。ヘンリー五世が要求した条件には、若く美しいフランス王女キャサリン(メラニー・ティエリー)との婚姻も含まれていました。

 

フランス国王らが条件を検討しに席をはずしている間、キャサリンと彼女の侍女に部屋に残ってもらったヘンリー五世は、「私は女性に愛を語る術を知りません」と言いながら、拙い言葉ながらも熱心に長々と(笑)自分のキャサリンへの愛情を語り、プロポーズします。長々と続いた戦争、殺伐とした画面が続いた後でここにきて初めてのロマンチックなシーンに、観ている側もほぅっと気持ちが和んで心つかまれます(´ω`*)。最初は警戒していたキャサリンも、ヘンリー五世の真摯な言葉にほだされて「父がいいと言うなら、承諾します」と答えます。

 

キャサリンの愛を勝ち得たときのヘンリー五世の嬉しそうな顔といったら・・・(*'ω'*)。あらやだ、単なる政略結婚じゃなくてアナタ本当にキャサリンに惚れてしまっていたのね!っていったいいつの間に?(笑) 流れた血の量は途方もないけれども、せめて二人が愛で結ばれてこの後は美しい平和が続くといいね・・・と心から思いました。フランス国王も、そう願いつつ、2人の結婚を祝福してヘンリー五世が提示した全ての条件をそのまま受け入れ、ヘンリー五世にフランス王国の統治権を認めました。生臭い戦争や政治の蚊帳の外にあるキャサリンにとっては、おとぎ話のハッピーエバーアフターになればいいのですが・・・。

 

アジャンクールで神に愛されたヘンリー五世ですが死神からは逃れられませんでした。結婚してからまだ数年のうちに、赤痢が原因で命を失ってしまいます。前の場面では喜びに満ち溢れて輝くばかりだったキャサリン妃が、夫の葬儀で喪服に身を包みジっと葬列を見守る姿が痛々しいです。キャサリンの腕にはまだ幼い二人の息子、未来のヘンリー六世が。ごく幼くしてフランスとイングランド、2つの国の国王となったヘンリー六世の波乱に満ちた行く末を暗示するかのようなエンディングです。

 

シェイクスピア劇は恐ろしく有名だし(一連の歴史劇は私は全部未読でしたが^^;)、そもそも史実を元にしているわけだし、結末は知っていながらも誰が誰をどう演じて、どんな演出があるかと楽しめる大河ドラマのようなものなので、ネタバレはネタバレに能わずと判断し、あらすじはほぼ書いておりますが、私の記事を読んだからといって映画の面白さが損なわれることは決してないと信じております。百聞は一見に如かず。気になったら、そしてお近くで上映があれば、ぜひ劇場に足を運んでみてくだいねー。さて、次からいよいよヘンリー六世、薔薇戦争の第1・史劇四部作に突入です。最後のリチャード三世はカンバーバッチというのも楽しみ。あ、でもまだ観られてない「リチャード二世」も観なくっちゃ。期限ないの限られた週末で上手く全作品網羅できますように(>_<)。

 

では、次の週末までシェイクスピア世界から一旦離れます。連続シェイクスピアにお付き合いいただき、ありがとうございました<(_ _)>。

 

 

追伸:
「嘆きの王冠 ~ホロウ・クラウン~」全編を通しての基礎知識的なメモは、予習編にまとめてありますのでご興味あればご覧ください^^。
こちら↓は、見づらいですが劇場版パンフレットに記載の相関図のページの画像です。ご参考まで。(クリックして大きくして見ないと見えないと思いますが^^;)

 

今のところ、輸入版のドラマ・バージョンのみDVD購入可能です。リー損は日本と同じですがPAL方式な点に要注意。PCでなら再生可能なそうです。併せてご参考まで。

 

 

第2・史劇四部作のシーズン1はこちら。劇場版では「リチャード二世」「ヘンリー四世Part1」「ヘンリー四世Part2」「ヘンリ五世」まで。

 

 

劇場版の全て、ドラマ版シーズン1と2のコンプリートBOX。劇場版を全部観おわって、文庫本も読み終わったらこちらを購入して、英語も含めてじっくり味わい直す予定♪(売り切れませんようにー)