『鬼平犯科帳(14)』 池波正太郎 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

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2月はなかなか図書館へ行けず鬼平スゴロクが進まなかったので今月はさっそく次に進みます。タイトルだけ眺めても、なんだか楽しげな雰囲気漂う14巻です^^。

 

《目 次》

あごひげ三十両

尻毛の長右衛門

殿さま栄五郎

浮世の顔

五月闇

さむらい松五郎

 

「あごひげ三十両」には、平蔵と佐馬之介の道場時代の知り合いでわけありの勘兵衛という老人が登場します。平蔵たちがまだ若かった頃の同門生で真面目な中年だったのに、岡場所の女性に突然のめり込んでしまって破滅の道を辿ってしまった「女はおそろしい」を体現したかのような元武士の老人の意外な姿を佐馬之介が偶然発見します。この勘兵衛じいさん、大そう豊かな白髪の髭を蓄えており、それを能楽が趣味の堀田摂津守のお殿様が新しくしつらえる翁の面のために三十両で譲らないかと持ち掛けられます。

 

そういえば平安時代の昔から、生活に困窮したあわれな女性が自らの髪の毛をお金に代えるというエピソードはよく見ますが、なるほど、あご髭も売り物になるのだなぁ。昔はカツラも能面も全て本物の人毛だったわけだよね・・・と改めて納得していたのですが、髭の根元近くで切り落とすのかと思えばなんと、一本づつ抜き取るというんです。ものすごく痛そう・・・。もちろん、勘兵衛じいさんもそれを聞いて真っ青、そんなの耐えられないとジタバタ抵抗するのですが・・・本当に一本づつ抜いたものをお面に接着していたんでしょうか・・・ひゃあ・・・(>_<)。

 

「尻毛の長右衛門」・・・すごいタイトルだな(^_^;)と思っていたら、まんま、ある盗賊のお頭の異名でした。しかも盗賊としては正統派のまっとうな(?)タイプの。体毛が濃くて体中毛むくじゃらだからっていうことらしいのですが、そんな、(裏)社会的地位もあって尊敬されている大物が「尻毛」呼ばわりされているなんてちょっとビックリでした。いや、そんな無礼な異名もおおらかに肯定できるあたりが、大物の証拠なんでしょうか(笑)。尻毛の長右衛門の配下で育った初心で見た目には色気も感じさせない少女が実は肉欲ムンムンの魔性の女の素質をもっていて男の人生を狂わせてしまいます。女はぱっと見た目ではわからない、血は争えない、こわいこわい、というお話。

 

「殿さま栄五郎」には、13巻の「熱海みやげの宝物」で登場した馬蕗の利平治が再び、新たな密偵として登場します。まってました!^^ そうなることを期待していました、えぇ。その利平治が活躍する最初の事件。利平治の密告で急ぎばたらきの兇盗一味を捕らえるため、なんと平蔵自らが、半ば伝説的な盗賊「殿さま栄五郎」になりすまして潜入捜査します。最後は少々切ない顛末がありますが、利平治の今後益々の活躍が楽しみです。

 

「浮世の顔」は、外道侍たちと外道盗賊たちの因縁とアクシデントが連鎖してドタバタと事件がころがっていきます。その渦中で救われる一般人たちもいるのですが、それなりに建前上の身分のある武士の品性下劣なことに呆れます。戦国時代が終わって徳川将軍の統治の時代が続き、出番も出世の機会もなくした武士たちが、活躍の場を見いだせず、食い扶持を失ったり、江戸にも浪人があぶれたり・・・で、かつては誇りと尊厳を守る、人の世の見本であるべきだった武士のていたらくを嘆き、時代の変換を予見する平蔵のため息が耳に聞こえてくるようです。

 

「五月闇」は、作品としては素晴らしく秀逸で緊張感もドラマも申し分ない、鬼平シリーズでも一、二を争う傑作ではないかと思うのですが、なんともやりきれません。大好きな密偵伊三次が活躍しますが、しますけれども、伊三次のドラマですけれども、あろうことか古い因縁の相手の凶刃に倒れてしまうんです・・・(T_T)。『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の、シリウス・ブラックの死に匹敵する不条理な悲劇!だからこそドラマチックだという事実も含めて口惜しい限り。連載当時、池波先生の元に読者からのものすごい反響があったそうです。

 

伊三次ロスのショックに打ちひしがられたままの状態で「さむらい松五郎」の頁を開くことになります。すると、伊三次と仲良しだった忠吾が、是非にと懇願して自分の家の墓の裏に供養した伊三次の墓参りをしているシーンから始まります。その帰り道、忠吾と生き写しの「さむらい松五郎」という異名の盗賊と間違えられて声をかけられます。いつもおっちょこちょいでちょっとだらしのない忠吾が、凛々しく活躍するストーリーで、ついうっかり、伊三次ロスにくよくよするのを忘れて子供の成長を喜ぶ親のような気持で(笑)、忠呉を応援していました。むうぅ、池波先生、うますぎる・・・。さっきまで「伊三次を殺すなんてひどいよ、先生!プンプン!」と理不尽に怒りをぶつけていたのに、「やっぱ、やるなぁ、鬼平犯科帳も池波正太郎もさいこーう!」とちゃっかり気分転換さていたのでした(笑)。

 

さて、週末はまた、図書館行って続きをかりてこなくっちゃ♪