『望郷』 湊かなえ 著 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

久しぶりに湊かなえさん。6編の短編集ですが、うち「みかんの
花」「海の星」「雲の糸」の3作は、去年オムニバス形式のスペ
シャルドラマ化されましたね。

《目 次》
みかんの花
海の星
夢の国
雲の糸
石の十字架
光の航路

「白綱島」という、瀬戸内海に浮かぶ小さな島を故郷にもつ
様々な人間の愛憎や夢や希望や挫折の物語。「白綱島」は、
湊さんの出身地である因島がモデルになっていて、そのためも
あってか、橋一本が本土と繋がっているだけの閉鎖された島の
中で生まれ育つ人の閉そく感や、海の向こう側への憧れ、濃密
な人間関係などとてもリアルに浮き彫りになっています。

島を出ていく者、出ていけなかった者、一度出てからまた島へ
戻ってくる者、それぞれの人生を様々な角度で切取ってきた
日常を描いた普通のヒューマンドラマ小説のようでいて、その
中にひっそりと、実は殺人事件や遺棄が隠れていたりするのに
所々どきっとさせられます。そして、「あ・・・実はこれ、ミステリー
でもあったのか・・・」とヒヤリとします。そのヒヤリ感が一番強
かったのが、「夢の国」です。

主人公の女性が結婚し子供を産んでから、家族で初めて、
子供の頃から憧れていた関東にある「夢の国」と呼ばれるテーマ
パークに出かけることになり、アトラクションに並んだりしながら、
敷居だけ立派な古い家と昔の格式に取りつかれた祖母の
支配にがんじがらめになっていた少女時代の思い出を辿るの
ですが、内気で自分から何かを変えるような度胸のない大人
しい女性のようでいて、家を牛耳っていた暴君のような祖母より
も、その祖母の言いなりだった母よりも、ずっと強いものを秘めて
いるということが段々と解かってきます。

ドラマ化された中で一番印象が強かったのは、「みかんの花」で
した。20年くらい前に流れ者の男と駆け落ちして島を出て行った
きり音信不通だった、人気作家になった姉と、島を出ていくこと
のなかった妹の姉妹と母親。ドラマの方が姉妹の性格の違いなど
肉付けされていてある意味わかりやすく再構築されていましたが、
文章で読むとまた一味違うというか、ドラマよりさっぱりしている分
想像力が刺激されてより余韻が強く残りました。

「雲の糸」「石の十字架」「光の航路」にはそれぞれ、何かしらの
「いじめ」が描かれていて、そのどれもがひどく残酷で、でもとても
リアルで、実際に自分の知り合いが体験していることのようで、
本当に胸が苦しくなります。やっぱり湊かなえさんは、えぐられます。
そのえぐり具合が見事過ぎて、本当にすごいなぁと感心しつつ
苦しいのに、どうしても読んでしまう^^;。そして、何かしらの救い
が用意されていたとしても、決して問題が解決してハッピーエバー
アフターにはならない。問題は解決されないまま残るか、また
新しい問題が生まれてくる。永遠に終わらない。でもそれが人生。

湊さんは、困難に立ち向かう女性の強さを描くのが特に上手いと
思いますが、その強さは「風と共に去りぬ」のラストシーンのスカー
レット・オハラの強さと重なります。そして湊さんは主人公も読者も
決して甘えさせない(苦笑)。けれども、突き放さずずっと側に佇んで
見守って応援してくれるようです。だから、うわ、しんどいーと思って
も、”それでもこれはフィクションの世界の話だから”という安心感と、
ままならぬのが人生、一歩づつ前に進むしかないんだ、とそれぞれの
現実に立ち向かうエールを貰えるような気がして、ついつい読んで
しまうのかもしれません。ただ、本当に弱り切ってボロボロの状態
だと引き込まれすぎて危険ですが。湊かなえさんを、楽しめるかどうか
は自分自身の心の健康状態のバロメーターかもしれません^^;。

湊かなえさんらしさの詰まった、短編集でした。長編も読みごたえ
ありますが、短編の湊かなえさんも、シャープで良い感じです。
風邪引いてしまってフィジカルにはバッド・コンディションでしたが、
読み終わって「あぁ、面白かった・・・」と思えるメンタルで今日も
無問題。よかった、よかった(笑)。
 
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