『ウィニー・ザ・プー』 A.A.ミルン 著/阿川佐和子 訳 | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

可愛いクマのイラストのカバーと、阿川佐和子さんの翻訳

ということで鼻息荒く衝動買いしました(笑)。

 

私にとってくまのプーさんは、ディズニーアニメのキャラクター

ではなく、岩波書店の、石井桃子さん翻訳の、シェパードさん

が描くプーさんなんです。絵本のプーさんと、パディントンが

私のクマさんトップツーでした。

ディズニーアニメの方はあまり見た記憶がないんですよね。

まったく見てないってことはないと思うのですが。ディスニー

キャラの絵本とかグッズは見慣れてたけれど、アニメーション

で動いているプーさんはあまり記憶に残っていなくて。

なので、物心ついてだいぶたってから、あのおっさん声に衝撃

を受けました(笑)。

 

実は私は、近年の新訳ブームを残念に思っています。

古い海外文学の名作を久しぶりに読んでみようかな、と思ったら

どれもこれも新訳で出版されていて妙に現代語になってしま

っていて、、、理屈ではわかるのです。もう21世紀になってもう

すぐ20年も過ぎようかという時代。今の若い人たちが受け入れ

やすいように翻訳を直す必要は確かにあるでしょう。でないと

そのうち、専門家以外は読めない古文書のようになってしまい

ますもん。せっかくの名作が若い人たちに読まれなくなるのは

よほどもったいないです。でも、自分で読むのは、やはり、古式

ゆかしいちょっと古臭いけれど端正な日本語で読みたいと思う

のです。新約はいいけど、旧約のものも残しておいて欲しい、

と思ってしまいます。我々古い人間のために。あぁ、そのために

古書店があるのかな・・・。

 

で、す、が。このウィニー・ザ・プーに関しては新約歓迎!阿川

さんですから、間違いありません。それに石井桃子さんバージョン

も、まだまだ手に入りますし。シェパードさんの挿絵がないのは

ちょっと寂しい気がしましたが、100% ORANGEさんのイラストも

とてもいいですし、文章メインになったおかげである意味、より

いっそう、プーさんの物語が際立って味わい深くなったような

気もします。昔読んだプーさん、細かいところは正直覚えて

ないので、比較してどうこうというひっかかりもないし、あぁそう

だったそうだった、プーさんの冒険の数々が甦りつつ、阿川さん

というフィルターの新鮮味もあってとても楽しめました。

プーさんたちって、こんなにイキイキと活動的で、おっちょこちょい

でおかしくて時々妙に哲学的でしょっとシニカルで詩人だった

んだ、って新しい発見をした気分も味わえました。

 

阿川さん翻訳で私がウマい!と特にププっとなってしまったところ。

プーが、ウサギの小屋ではちみつ食べ過ぎて入口にお腹がつっか

えて出られなくなってしまったお話でのラビットのセリフ。

「言いたかないけど、僕たちふたりのうちのひとりは確実に

食べ過ぎていたと思うよ。それが僕じゃないってことは明らかだ。」

あと、ゾオォ(象)を捕まえる罠を作って餌においたハチミツのツボ

に舞い戻ったプー、「ハチミツ熱烈歓迎体勢に入りました。」

もぉ、本当におばかなクマちん!

 

本の帯に記載された、阿川さんによるあとがきからの抜粋。

 

Q:
ほとんど何の教訓もない。
なのにたまらなく愛おしい。
「バカなクマちん」
私は訳しながら何度呟いたことだろう。

:Q

 

私も、読みながら何度も「バカなクマちん!」と微笑みました。

新しいプーさん、こんにちは。おかえりなさい。会えて嬉しかった。

 

最後に蛇足ですが、阿川さんのあとがきにあった、本家石井桃子

さんがプーさんの翻訳本の出版を決心したエピソードが素敵すぎ

たので忘れないよう、記録しておきます。たまたま、友人の家で

『Winnie the Pooh』の原書を読んだ石井さんが、後日病身の別の友人

を見舞ったときに可愛いクマの本を読んだのよ、とその内容を

話したところお友達も気に入り、もうすぐ自分が死んだら三途の川

の側で遊んでいる子供たち(賽の河原の子供たちですよね)のため

の幼稚園を作ろうと思う、でもその時に日本語になっていないと

そのクマのお話をしてあげられないからあなた(石井さん)、翻訳を

してよ、と言われたのがきっかけだそうです。

 

『指輪物語』も『ピーター・ラビット』も『ハリー・ポッター』も『くまのプー

さん』も『ナルニア国物語』も皆、身近な子供のために愛情込めて

作られたお話で、さらにそれを大切な誰かに伝えたい、と出版し

購入し読み聞かせ、翻訳し、世界中に愛される名作が広がっていった

と思うと、なんだか胸がいっぱいになります。