シンデレラ | 今日もこむらがえり - 本と映画とお楽しみの記録 -

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備忘録としての読書日記。主に小説がメインです。その他、見た映画や美術展に関するメモなど。

 

 

2015年 アメリカ

ケネス・ブラナー監督

 

昨日はちょっと、久しぶりにイライラしたりゲンナリする

ことが続いたので寝る前の気分治しに、溜まってる録画

の中から平和になれそうなものを。

言わずと知れたシンデレラ。安心のハッピーエンドで

狙い通り気持ちよく就寝できました。

ほんわかした定番お伽噺の実写化、といって侮れません。

キャストや映像、そこかしこにこだわりの散りばめられた作品です。

 

まず、シンデレラ役に抜擢された新人女優のリリー・ジェームズ

はたまらなく可愛いし王子役のリチャード・マッデンも青い目の美形

でまさに絵本から飛び出たかのような王子っぷりで、絵になる

カップル。フェアリー・ゴッドマザーのヘレナ・ボナム=カーター

のブロンド&キラキラドレスも新鮮。ですが、近年すっかりキワモノ

女優が板についてしまった彼女、最初に登場する薄汚れた老婆姿

の方が妙に様になっていたりして。あぁ、『眺めのいい部屋』の頃

の可憐なヘレナ・ボナム=カーターが懐かしい。恋しい。

 

そして。この映画での一番の見どころポイントは、継母役の

ケイト・ブランシェットではないでしょうか。ケイトですよ!

指輪物語でのガラドリエルが、悪役脇役のいじわるな継母!

熱情的で激しい性格を表すかのような、赤毛も似合いますが、

ケイト・ブランシェットがただのやられ役のはずがない。継母役

の人生やなぜシンデレラに冷たくあたるようになったのか、という

経緯が掘り下げられています。子供向けの絵本とアニメでしか

見たことがなかった『シンデレラ』では、最初から”いじわるな

継母”として登場して、本当に単純に悪役で、脇役で、思い通り

にならなくて最後「キィーーーーッ」て悔しがるだけの存在だった

に、映画ではしっかりと「人格」が描かれているんです。

 

まぁ、結局は本人の裁量の狭さとか浅はかさとか考えの足りなさ

とか全部が原因なので自業自得なわけですが、間違ってはいて

も、すごく人間らしい。あの時代、夫に先立たれるということは即

経済的に困窮するということだし、財産のあるエラ(シンデレラ)の

父親との再婚は、生きるためでもあったし自分が愛される喜び

と自身も確かにあったはず。なのに、再婚した夫はきっと間違い

なく誠実な愛情は注いでくれたはずだけれどもそれを十分理解

できず、前妻と彼女にそっくりな娘に言いようのない焦燥感と嫉妬と

絶望を覚えてしまったんでしょう。しかも、再婚した夫にまで先立た

れるなんて。私はなんて不幸なの。美しく生まれてチヤホヤされて

きて、誰よりも贅沢に幸せになっていいはずなのに!と思ったに

違いないです。そんな即物的で表面的なものばかりにとらわれず、

もっと本質的なものに気がつけたら・・・と、彼女の人生来し方に

つい思いを馳せてしまいます。

舞踏会その他でくやしそうにしている時などのコケティッシュな

表情もいい味だし、さすがケイト・ブランシェット。実力を感じます。

 

継母の実の娘二人は、これまた見事に母親の俗悪性を反映

した中身カラッポの残念なお嬢さん方で(笑)。二人の衣装も部屋

も、シンデレラのそれがシンプルでナチュラル、色も淡い水色

やクリーム色、パステルピンクくらいなのに比べ、ビビッドな色彩

と装飾に溢れていて、これでもかとばかりにゴチャゴチャしている

のもうまい対比です。

 

主役二人の夢の国感と、ケイトやヘレナその他のワキを固める

キャストたちの存在感と、色彩効果と音楽とがうまく調和して、

大人もしっかり楽しめる童話の世界が完成していました。