俺は原付で軽自動車にはねられ、異世界に転生した。
転生というが、赤ん坊からのやりなおしではなく、少し若返った程度だ。
見た目はまだ確認していないのでわからないが、あまりにブ男でないことを祈ろう。
こういう転生では超絶イケメンで、超絶強いのがお約束なのだが、
どうやら俺はものすごいハズレを引いてしまったらしい。
ステータス開示で服や身に着けているものをすべて失った俺は、
全裸で近くの集落へ向かっている。
集落まであと500mくらいのところまできた。
一本道なので入り口はもう見えているが、
俺の前にはいま変な生き物が立ちふさがっている。
「おまえは…なんだ?」
二本足で歩く、俺の背丈の半分ぐらいのレオパ…ヒョウモントカゲモドキがこちらをじっと見つめていた。
転生する前は爬虫類も飼育していたので扱いは心得ているが、
さすがにこんなに大きいヤツは初めてだ。
「おい、レオパ。俺のペットにしてやるから一緒に来い。コオロギも食わせてやる。」
異世界転生なので俺は調子に乗っていた。言葉が通じると思っていたし、襲ってこないだろうと思っていた。
しかしすぐに後悔することになる。
「おい!やめろ!なんだってんだよ!」
急にレオパが俺の上にのしかかってきた。
襲い掛かってきたのかと思ったが、俺は思い直した。
こんなにかわいい爬虫類が俺を襲うわけがない。
きっとじゃれているのだ。かわいいやつだなあ。
次の瞬間。
レオパが大きな口を開け、俺の方にかじりついた。
よくわからないがそんなに痛くない。
しかし血は出ている。
もしかしてこいつはただの大きいレオパではなく、異世界のモンスターなのでは!?
そう考えているうちに、レオパはもう一度俺にむかってこようとする。
「そっちがその気なら、俺もやってやる!」
しかし周囲に武器になりそうなものはない。
しかもステータス上は俺は装備ができないことになっている。
「どおでもいい!えーい、これでもくらえー!」
俺は目の前のかわいい大きいレオパを殴りつけた。拳で。
「いってえ~!」
俺は、あまり固くないレオパの殴り心地とは裏腹に、拳に受けた衝撃の強さに驚いた。
HPは減っていないようだ。俺の声に少しレオパがひるんでいる。
この隙に一気に畳みかけよう。
「おりゃ!」「どらあー!」「しねえ!」
叫びながら拳を打ち込む。
目の前のレオパは大きい声に怯え、あまり動かない。
俺はなぜ、こいつを無視して集落に直行しなかったのか。
決着がついたのは、俺がレオパを殴り始めてから3時間後だった。
「はあ…はあ…」
やっと。終わった…。
俺はまるで、ラスボスを倒した勇者のような思いで草原に倒れていた。
まさかあんな雑魚そうなレオパを倒すのに、こんなに時間がかかるとは思ってもみなかった。
3時間まるまる、一秒に一回ほどのペースでレオパに拳を打ち込み続けた。
拳は擦り切れ、HPはのこり2である。
HPが尽きたらこの世界でもやはり死ぬのだろうか。
色々考えていると、やはり疲れていたのだろうか。
俺は意識を手放していた。
目覚めたときには真上にあった太陽が、
少し傾き、辺りを綺麗な赤に彩っていた。