ようやく朝夕は凌ぎやすくなってきたかと思いきや、まだまだ日中は湿度も高く汗ばむ日が続きます。

さて、今回は以前にお話しした「特別2等車」についての続編ということなのですが、お盆休み中に手掛けていた客車のイラストが漸く完成しましたのでご紹介したいと思います。

何分私の生まれる前の客車ですし、もちろん実物を見たこともありませんから、国鉄の作成した形式図と雑誌の写真を基にして仕上げました。


一応寸法などは図面を見て実物の縮尺通りに表現してはありますが、細部の表現はデフォルメされているので必ずしも実物通りではありません。でも概ね雰囲気は出ていると思うので、こんな客車があったのだ・・・ということでご覧ください。

 

鉄道ネタというのは鉄オタ以外の一般の方にとってはどうでも良い興味の無い内容かもしれませんが、まあ、こういう物があったのだ・・・くらいで読み流してください。

 


イラスト1:これは占領軍からリクライニングシートの客車を作れとの指示があって、最初に設計された言わば特別2等車のルーツである幻の1等車スイ32型です。冷房装置を搭載しています。

 

この客車は当時出来上がったばかりの3等車スハ42型を改装して作るということで計画され、窓配置などはそのままであるため、リクライニングシートのピッチは1455㎜というとても広い間隔になっています。定員は36人です。
客車の両端には男女別の洋式便所と洗面所が設けられ、特に女性用の化粧室(左端の白い窓のエリア)には大きな姿見とスツールが置かれる予定でした。
しかし、戦後の復興期、特に3等車の整備が緊急課題であった当時、出来上がったばかりの新型3等車を需要の少ない1等車に改装するなど、本末転倒であるとのことで、この案は中止、代わりに古い木造の客車の台枠だけ流用して作るということになって設計し直されたのが次のスイ60型です。

 


イラスト2:これがスイ60です。スイ32に比べデッキが片側になり窓の桟も細くなった関係でシートピッチ1250㎜定員44人となったのです。冷房装置を搭載する予定だったので屋根上に点検蓋がついています。


イラスト3:スイ60の図面を占領軍に見せたところ、40人以上乗せる1等車など世界中どこにもないと反対され、やむなく2等車として完成させたのがこのスロ60です。

このイラストは完成後、実際の運用時のトラブルであったトイレの水不足に対応して水タンクを増設し、手荷物置き場を車掌室に改装し、台車も元のTR40からTR40Bに変更された100番台の姿を描いています。

 


イラスト4:特急用のスロ60の大好評で、国鉄は気を良くし、急行列車にも特別2等車を連結することになり作られたのがこのスロ50。
最初はスロ60同様に木造客車の部品流用ということで作るため、スロ61となるはずだったようですが、何か製造予算の関係とかで
新造車の形式のスロ50として登場しました。シートピッチは1100㎜に狭くなって、定員は48人です。

 


イラスト5:スロ50はスロ60と同じく冷房化の準備が行われていましたし、化粧室もとても広かったのですが、急行用ということで冷房は搭載しない、広い化粧室より定員を増やすということで生まれたのがこのスロ51。シートピッチ1100㎜定員52人です。
このスロ51を北海道向けの耐寒仕様にしたのがスロ52で、その他の仕様はほとんど同じです。

 


イラスト6:こちらが特別2等車の完成形とも言えるスロ54型。イラストはありませんがスロ53型とほとんど同じです。何か蛍光灯照明が採用されただけで別形式になったようです。

こちらは1100㎜のシートピッチはやはりやや狭いということで、1160㎜に広げ、窓桟の細い優雅なスタイルの好ましい客車です。

 

イラスト7:これは今までの客車とは全く異なる近代的な軽量設計で作られたナロ10型です。基本的な寸法などはスロ54型と同じですが、車体幅も広くなりフレッシュな印象になりました。

東海道線が全線電化され、蒸気機関車のばい煙から解消されたのを機に特急列車がこのような緑色に塗り替えられ、それまでのイメージを刷新しました。

 

イラスト8:最後に登場するのはナロ20型。ブルートレインと呼ばれた東京発九州行きの寝台特急「あさかぜ」「さくら」などに連結された客車です。ナロ10とそれほど変わらない内装ですがシートピッチは1170㎜、定員48人。最初から冷房搭載なので大きな屋根が特徴です。客車の長さもこれまでの物より50cm長くなって20500mmになりました。

ブルートレインの名前通りブルーの車体にクリーム色の帯という姿で登場し、寝台列車のクイーンとして活躍しました。
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如何でしたか? 昔は今のように新幹線も特急電車もなく、列車と言う物は全て機関車が客車を引っ張って走るのが当たりの姿でした。そして蒸気機関車のばい煙の汚れが目立たないように客車は全て濃い茶色に塗られていましたから、普通の人にはその違いなど分かりにくかったと思います。

でも、色々調べて行くうちに、客車の世界も奥の深い物だと知らされました。これらのイラストの客車は全て1983年までに他車への改造や廃車になっています。

 

私が生まれた頃には既にありませんでしたし、今の新幹線や新しい電車に比べて、地味ですし古臭い感じがするかと思いますが、今の新幹線や新しい電車というのは、なんとも味気ない感じがします。模型や写真で眺めるとこのような客車は、とても旅の郷愁を感じるノスタルジックな物だと思います。