時間や場所、自我、そういう全ての感覚が無い世界。
音がする。声がする。何だろう?と思う。
何が起きているかは分からない。ただ、名前を呼ばれた事だけは理解出来た。ああ、その音の響きは『私』だ、と。
その時、真っ暗だった世界に開かれた扉のような物が現れて、そこから眩しい真っ白な光が差し込んで、徐々に感覚が、記憶が戻って行く。
パソコンの再起動ってこんな感じなんだろうか。今は、そう思っています。
・・・と、唐突に始まりました(苦笑)。
前に少し触れました、救急搬送された時のお話です。
その日は精神科の受診日。
いつもの通り、予約の時間ちょっと前に病院に着くと待合室で時間を過ごしていました。
今日は待合室、ちょっと暑いな・・・そんな事を思いながら、こっそりストレッチしてみたり、スマホを見てみたり。
そのうちに倦怠感が襲って来たけれど、それ程気にしていませんでした。
暫くして、予約時間よりほんの少し遅れて呼ばれたので立ち上がって、診察室へ。
ちょっと大げさじゃない?と自分で思うくらいに気怠く椅子に座って、待っている間に気持ち悪くなってしまって・・・と先生に打ち明けました。
血圧を測ると上が88。
ああ、それで体が怠いんだな・・・と合点が行って、先生も「顔色も良くないから少し横になっていくといいよ」と言って下さったので、その言葉に甘えて別室のベッドまで、看護師さんに支えてもらって(一人で歩けるのに申し訳ないなあ・・・と思いつつ)数歩、激しい吐き気と、目の前が白と黒のとても細かいチェック模様に覆われて・・・。
気が付くと、冒頭の状態でした。
汗が凄い、顔色が真っ青だ、先生、どうしましょう、救急車を呼ぼうか、あ、兎さん意識が戻ったみたいです。大丈夫?手を握れる?(握られた手を握りかえす)
・・・どうして皆、そんなに騒いでいるのだろう。
どこも痛くない、さっきの吐き気もないしいつもの怠さや頭痛もなくて、むしろ調子がいいくらい。
それにしても、さっきの場所は心地良かったなあ。
あのままあそこに居たら良かったのかな。
そんな事も思っていました。
その後もやたら耳だけが冴えていて、周囲の遣り取りをぼんやりと聞いていたものの、体に力が入らずに目が覚めた時のままの姿勢で、いつの間にか運ばれていたベッドで目を閉じたまま寝て居ました。
先生が顔を覗き込んで、目の下の部分を診て「これは酷い貧血だなあ」と呟いて、「どうする?救急車を呼ぼうか」と言うので、「もうだいじょうぶです、なんともないです・・・」と小さな声で返事をしました。
その時は、本気でどこも具合が悪いわけではないし、10分くらい休んでから帰ればいいだろうと思っていたんです・・・。
けれど、先生に「そんな状態で車の運転はさせられない、家族は誰か来てくれそう?」とビシっと言われて(今考えたら当然です)、カルテにある番号に連絡を取ってもらいました。
父親と連絡がついて、すぐに病院へ来てくれました。
すぐに、と言ってもあくまで私の体感時間であって、どうやら朦朧としたり目が覚めたりを繰り返していたようなのですが・・・。
《続く》