「手まりなんかどうでもいいの。それより月子。やっと靴が手にはいったのよ。あなたの靴よ」
とお母さんは自分のことのようにいそいそしてお仏壇の前にかざってあった牛乳函ぐらいの包みをとってきたのです。
「見せて見せて。ちゃんと足が入るかしら」
月子さんは箱をつつんであった新聞紙をはがして中の品物をひざの上に出してみました。それは赤い色の子ども靴でした。月子さんはがっかりした声をだしました。
「なんだ、運動靴じゃないの」
「今どきズックの靴なんてなかなか手にはいらないのよ。とにかくはいてごらん」
月子さんはしぶしぶ新しい靴をはいてみました。寸法は少し大き目でしたが今はいているきちきちの運動靴よりはずっとらくでした。でもこんな革靴をふだん学校へはいて行くわけにはいきません。
「終業式にはいていけばいいじゃないの」
「ふうん」
月子さんは生返事をして自分の机のほうへ行きました。宿題があつたのです。ランドセルを開けてみてぎくっとしました。そろばんを教室へ忘れてきたのに気がついたのです。
そろばんはお母さんが作ってくれた袋へいれてランドセルの耳のようにさしこんであるはずでした。下校する時目につかなかったのがふしぎでした。
月子さんはよほどゴムボールのことが気になっていたと見えます。そろばんの授業のあと机の中へ入れっぱなしだったのです。
「お母さん、そろばんを学校に忘れてきたわ。とってくる」
月子さんはおおいそぎでかけだしました。
「月子、あわてて行ってころんだりするんじゃないのよ」
とさけんだお母さんの声もとどきませんでした。