わたしの渡世日記 上

高峰 秀子  文春文庫


 複雑な家庭環境、幼い頃からちやほやされる俳優稼業・・・そんな中で、どうやったらこんなに賢くきちんとした人になれるのだろう。


 女優、高峰秀子が波乱の半生をつづった自叙伝的エッセイ。その時代のそうそうたる顔ぶれにかわいがられながら、おごることなく常に自分を客観的に見ている。育ての母親や兄弟との葛藤にも我を見失わない。それでいて素直な思いやりがあるのだから、まぁ、かわいがられるはずですね。



 そんな彼女が二十歳そこそこの頃、山本嘉次郎監督から、松の木やタクワンのたとえ話にかこつけて、どうせ役者になるなら「プロになれ」と言われる。たとえ話からこの真意を読み取るだけでも大したものだと思うのは、私だけ? 


 役者稼業に徹しきれない、どこかで役者稼業を見下している部分があったと打ち明ける彼女だけに、その決意は真っすぐに私の心にも響いた。


 「好きも嫌いも仕事と割り切って、演る以上はプロに徹しよう。持てない興味もつとめて持とう。人間嫌いを返上して、もっと人間を知ろう。タクワンの臭みを、他人の五倍十倍にかんじるようになろう」


わたしの渡世日記〈上〉 (文春文庫)/高峰 秀子
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 それにしても、うまいエッセイです。あっ、日本エッセイスト・クラブ賞受賞だそうです。なるほどね。続き(下)を読みましょう。

 最近、バッグを軽くするため、通勤時に持ち歩くのは文庫と決めています。