太陽を曳く馬

高村 薫  新潮社


 「晴子情歌」で母・晴子の手紙を洋上で読み、「新リア王」で実父・榮と草庵で語り合った福澤彰之。彼の実子で絵を描いていた秋道が謎めいた殺人を犯し、また一方で、彰之の関わっていた寺のサンガにいた青年がやはり謎の残る交通事故で亡くなる。


 高村作品ではおなじみの刑事、合田雄一郎は年を重ね、9・11をかつての妻を失うという複雑な状況で体験して、これらの事件に取り組むのだった。

 

 物語は、動機不明の殺人やオウム真理教など現代の社会に斬り込み、合田刑事とともに読者が向き合うのは、芸術、宗教、自分という意識と生命。


 彰之という近代理性は、問うて問うて問い続けるけれど、その彼の歩く道は荒涼として、答えは一向に見当たらない。問うことに意味があるのかもしれないけれど。

 終盤、刑死を待つ身となった息子を思いやっておろおろする凡庸な親としての彼の姿に、ほんの少しがっかりしながら、やっとほっとした。



 「新リア王」では自分の知識不足を恥じた私。ここでは、考える力の弱さを思い知らされ、ところどころで立ちすくんでしまう体たらくでした。

 それでも読ませるのは、さすがはストーリー・テラー高村薫なのでしょう。



 たとえば「1Q84」と比べて。

 しっくりとくるのは間違いなく「1Q84」だけれど、圧倒されて、それでもそれでもと向かっていかねばならないような、そんな大きな読後感を残したのはこちら「太陽を曳く馬」でした。


 今年後半、この3部作を読めたのはとてもよかった!


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