晴子情歌
高村 薫 新潮社
大学を出て漁船員となった遠洋上の息子に、母・晴子は膨大な手紙を書き送る。その手紙と息子の想いが、大きく昭和という時代を映し出す。
東京で生まれ、「“嵐が丘”のようなところなら」と父の故郷・青森へ、さらに北海道へと移り住んだ晴子は、聡明で、どこかとらえ切れないところのある魅力的な女性。周囲をよく観察し、自分の頭でよく考えるけれど、大きな流れには自然と身をゆだね、時としてその大胆さに私は驚かされた。
母と息子の濃い絆。それなのに息子から見た母は、やはりとらえきれない。何かに圧倒されるような読後感だった。
二・二六事件も太平洋戦争も炭鉱の労働争議も、その真ん中ではなくて、少し遠巻きの大多数の人々が体験した辺りから、しかしくっきりと描かれる。漁の様子など、知識のないこちらが置いていかれそうな詳しさ。
高村薫の視点と筆力に、ただただ驚くばかりだった。
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奥付をみると、2002年5月発刊でした。
「レディー・ジョーカー」を読んで、すっかり高村ファンになったので、きっと出てすぐに買ったのでしょう。それなのに・・・ず~っと本棚に眠っていたのですね(・Θ・;)
新刊「太陽を曳く馬」が三部作の完結編だと聞いて、妙に律儀に第1作となるこの本を手に取りました。
旧漢字や方言にちょっと戸惑いもしましたが、間もなく慣れて、あとはのめり込むようにページを繰りました。