前回、言語野には

運動性言語中枢と感覚性言語中枢

があって、話すことには

運動性言語中枢のブローカ野が

関わっているということを書きました


『言葉と脳 ~ ブローカ野とウェルニッケ野』





最近、

ブローカ野はそれ以外に

非言語的などの運動機能にも

関わりのあることが報告されています



例えば、

 複雑な手の運動の準備や動作

 感覚刺激と動作の結びつけ

 視覚刺激の感覚処理



これらは全て

高度な演奏に必要な要素でもありますね




暗譜とは

楽譜を覚えて演奏することですが、

楽譜を初めて見ながら演奏するのを

初見(しょけん)といいます



初見では

音楽記号を見ながら

それに従ってリアルタイムで

演奏しないといけません



五線譜上の

音符の縦位置が音の高さを表し、

横位置がタイミングを表します



その視覚情報を元に

手などの運動を行なって演奏します



つまり、

演奏には、優れた視空間分析能力が

要求されるのです




これまでの研究により、


演奏技術が高くなるにつれて、

 右脳と左脳をつなぐ脳梁の前部が大きくなる

 弦楽奏者では左手に関わる脳領域が広くなる

 ブローカ野の灰白質の体積が大きくなる

いうことなどが報告されています



また、

演奏家は一般人に比べ

ブローカ野が広く、

演奏をするのに必要な

譜面を見る視空間能力と

それを元に順序立てて

素早く手を動かす能力が優れている

と考えられていて、

演奏経験が長いほどブローカ野が広い

ことも分かっています



では、

演奏家の視空間分析能力はどうなの?

音楽と関係のない課題で

どこが活発に活動しているの?


というのを調べた論文があります



Sluming V, et al. (2007)
"Broca's area supports enhanced visuospatial cognition in orchestral musicians"
Journal of Neuroscience 27(14): 3799-3806.




ちなみに、この論文が掲載された

Journal of Neuroscience

という雑誌は、神経科学分野で

かなりレベルが高いです



実験に参加した被験者は


【演奏家】

10人、男性、右利き、平均42歳


所属するオーケストラは

ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団


担当する楽器は

ヴァイオリン 7人

チェロ 2人

コントラバス 1人



【一般人】

10人、男性、右利き、平均40歳


全員、リバプール大学の教員




視空間分析能力は

心的回転(mental rotation)という

少しだけ違う2つ立体的な図形が

同じか違うかを区別する課題で

図形の角度が同じなら比較は簡単でも

片方の角度を回すほど難しくなります



実際に使われた図形です ↓


$プラスサイエンス ~ 科学が気になるアナタのために-心的回転


(上記論文より)



C) と D) を見ていただいて

回転の角度は両者で同程度ですが

C) は同じ図形で、D) は違いますね



課題の難しさは

正答率と回答までにかかる時間で

評価できます



実験の結果、まず、

演奏家は、一般人よりも

正答率が有意に高かったそうです



回答までの時間を分析したところ

一般人が大体2秒以上かかったのに

演奏家は、約1.5秒と短時間で回答


さらに、一般人では

比較する2つの図形の角度を

大きくすると時間がかかりましたが、

演奏家では

その角度にあまり関係なかったのです



つまり、演奏家は

音楽と関係のない視空間分析能力も

高かったということです




では、

この課題をやっている間に脳のどこが

特に活動していたのでしょうか?



fMRI で調べたところ、

なんと、演奏家ではブローカ野が

強く活動していたのです



演奏家の高い視空間分析能力は

ブローカ野が発達しているから

だったのですね





(おしまい)





文:生塩研一





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