昨日のブログでは
『ピアニストの脳の手領域は広い』
細かい動きを担う脳領域は広く
訓練する運動に関わる脳領域は広くなる
熟達すると、脳活動は効率的になる
という話を書きました
今日は、ごく最近の論文で
同じ動きを長期間にわたって
繰り返す訓練が、脳の運動野に
どのような変化をもたらすのか
を調べた研究を紹介します
Picard et al., (2013)
"Extended practice of a motor skill is associated with reduced metabolic activity in M1"
Nature Neuroscience
実験では、サルに1~6年
簡単な手の到達運動を訓練して
運動野の代謝とニューロン活動
を計測しています
到達運動とは
目標に手を伸ばしてタッチする運動です
サルの前に置いたパネルには
横一列に5つのタッチする場所を設定
それぞれの上にはLEDが点灯します
課題は4つ
追跡課題:
次々に点灯するLEDを追って素早くタッチ
3回連続でタッチで、ジュースのご褒美
記憶課題:
5つのLEDのうち、3つが順次点灯
サルは、その順にタッチします
3つのLEDは点灯したままで、
最初に点灯した順序で
タッチしないといけません
成功したらジュースのご褒美
ランダム課題:
先の追跡課題と似ていて、違うのは、
3回連続成功で一区切りではなく、
ずっと続くこと
4回目のタッチ毎にジュースのご褒美
繰り返し課題:
記憶した順の3回タッチを
ひたすら繰り返します
5回目のタッチ毎にジュースのご褒美
追跡課題 と ランダム課題 は
その時その時で、点灯したLEDに
向かってタッチしないといけないので
視覚誘導性課題と言えます
一方、
記憶課題 と 繰り返し課題 は
一旦覚えた順序でタッチしますので
内的生成課題と言えます
この研究では、代謝を調べるのに
2DG取り込み実験をしています
代謝というのは
エネルギーを補給することと
思ってください
で、2DGとは
2-デオキシ-D-グルコースのことで
グルコースは ブドウ糖(C6H12O6)
6つある炭素のうち
2番目の炭素にくっ付いている
ヒドロキシ基(-OH)の
酸素がない(デオキシ)
光学異性体でD型のものです
そもそも、
グルコース(ブドウ糖)は
細胞内で解糖系により
生物がエネルギーを使いやすい
ATP(アデノシン三リン酸)
を作るのに使われます
しかし、この実験で使われている
D型のグルコースはグルコースとして
細胞内に取り込まれても
構造が微妙に違うので
解糖系による代謝を受けずに留まります
この実験で使われている 2DGは
グルコースを構成する炭素に
放射性同位体(化学的性質は炭素)の
14C で標識されています
これにより、
脳を取り出し、凍結、切片化して
オートラジオグラフィー技術で
2DGが取り込まれた領域が分かります
つまり、脳のどの領域がエネルギーを
欲していたかが分かるのです
実験の結果、
毎回次のタッチ位置が指示される
視覚誘導性課題では
M1領域での代謝は上がっていました
一方、
覚えた位置をタッチする、
内的生成課題記憶課題では
M1領域の代謝はかなり低く、
なんと、
課題とは関係なしにジュースを
なめているときと同程度でした
ちなみに、両者の課題で
手の運動は違わなかったとのこと
次に、
代謝が高い課題と低い課題で
ニューロンの活動性を調べたところ、
ニューロンの活動性は
代謝の高低で変わらなかったそうです
タスク関連ニューロンの2/3は
内的生成課題でむしろ増えていたとか
熟達したスキルの場合は
イメージング実験で活動の弱い、
つまり、代謝が低い領域の
ニューロンの活動も低い、
とは限らないということですね
個々のニューロンが効率よく
発火できているということでしょうか
もしかしたら、
発火するニューロンの数自体が
少なくなっているのかもしれません
と言いますのは、
個々のニューロン活動を調べる
シングルユニットレコーディングでは
課題関連ニューロンを探していると
課題に関係して発火するニューロンが
なかなか見付からないからです
熟達した運動では
脳の活動がどうなっているのか
個々のニューロン活動を
もっといろいろなケースで
詳細に調べる必要があります
(おしまい)
文:生塩研一
お読みいただきまして、ありがとうございました。
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