先日、
利根川進博士らの研究グループの
記憶に関する論文が
Scinence に掲載されました
理化学研究所のプレスリリース
「記憶の曖昧さに光をあてる
-誤りの記憶を形成できることを、光と遺伝子操作を使って証明-」
Ramirez S, et al (2013)
Science 341(6144) 387-391.
利根川進博士と言えば
1987年に免疫関係の業績で
ノーベル賞を受賞されましたが
1990年代からは学習や記憶といった
脳科学の研究を進められています
今回の論文は、
去年、Nature に掲載された
彼らの論文の続きなので
まずは、その去年の論文から
簡単に紹介しましょう
理化学研究所のプレスリリース
「記憶が特定の脳神経細胞のネットワークに存在することを証明
―自然科学で心を研究、心は物質の変化に基づいている―」
Liu X, et al. (2012)
Optogenetic stimulation of a hippocampal engram activates fear memory recall
Nature 484: 381-385.
実験の内容は、
光で記憶を再生させた
ということなのですが
どういうことでしょうか?
この実験で使われている手法に
光遺伝学(オプトジェネティクス)の
技術があります
光で応答するように
ニューロンに遺伝子導入しておいて
脳に刺入した光ファイバーで照らして
Naイオンチャネルを開けることで
それらのニューロンだけを反応させます
ワイルダー・ペンフィールドが
患者の脳のニューロンを
小さな電極で電気刺激した代わりに、
光でニューロンを反応させよう
というわけです
ペンフィールドの実験については
参照:拙ブログ
『脳に微弱電流、で記憶が蘇る?』
実験では、マウスをある環境に置いて
数分間ほど探索行動をさせて
その環境を把握させます
そのとき、
新しい環境を学習している間だけ
海馬という脳部位で
反応するニューロン群を見つけて
さらに、
どの遺伝子が活性化したを同定します
そして、その遺伝子と
光に反応して開くイオンチャネルを
作る遺伝子を結合させて
新しい環境を学習する
海馬のニューロンに導入します
すると、これらのニューロンは
光をあてただけで
反応するようになります
ちなみに、
あてた光は ブルーライトで、
例えば、
波長 473 nm, 持続時間 15 ms
20Hz(1秒に20回)を 3分間
このような操作を施したマウスを
トランスジェニックマウスと言いますが
これらのマウスをある環境に置いて
数分間ほど探索行動をさせて
今度は足に軽い電気ショックを与えます
マウスはこの刺激が嫌いなので
うずくまって動かなくなります
これを繰り返すと
その環境に置いただけで
うずくまってしまうようになります
他の環境では、うずくまりませんが
そのとき、マウスの脳に刺入した
光ファイバーから光を与えます
すると、
マウスはうずくまってしまった
というのです
環境の記憶は複雑で
いろいろな要素が絡んでいますので
記憶としても複雑です
つまり、
光をあてたニューロン群は
覚えた環境 と 電気ショック
を結びつけたエングラムとして
機能していると考えられます
エングラムとは、
特定の記憶を引き出すきっかけとなる
記憶の再生スイッチでしたね
参照:拙ブログ
『脳に微弱電流、で記憶が蘇る?』
光をあててエングラムを働かせて
記憶を呼び起こすことに成功した
という実験でした
(おしまい)
文:生塩研一
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