玄関を開けて仰向けに寝転がる。
左腕で視界を隠しながら、深く息を吸う。
結局、焦って行きと同じようなペースでただひたすら走って帰ってきた。
正直、帰りのことはよく覚えていない。
窓からは朝陽が射し、窓の前に置いてある百合の影が、玄関の壁にくっきりと象られている。
光から得られる、心地よい温度。
寝るのには気持ち良さそうでーーー
・・・・
「お兄ちゃーん、ご飯だよー!」
無駄に元気なその声で目を開く。
えっ、嘘だろ。
結愛が起きてる…
ああ、これは夢か…
そんなことを考えながら、再び目を閉じる。
「寝るな、ばか!」
腹を踏まれて、夢じゃないことが分かる。
それにしてもおかしい。
いつもは登校ギリギリまで起きない結愛が、もう起きてるなんて…
槍でも降るんじゃないか?
「ねぇ、お兄ちゃん。今、失礼なこと考えたでしょ。」
「えっ?」
「どうせ、『結愛がもう起きてるなんてあり得ない。雪でも降るんじゃないか?』とか思ったでしょ!」
「あっ、惜しい。」
つい言ってしまった。
雪じゃないんだよ。
槍なんだよ。
「何が惜しかったの?」
「そんなことより、結愛さ、今日は何で早く起きれたの?」
「流された… いいや。だって、今日から中学生だもんっ!」
そういえば、今日から中学生なのか。
「まあ、明日からは、いつも通り起きられないよ。」
笑顔で言う。
「大丈夫だもん! 中学生になったから、毎日しっかり起きるもん!」
まあ、起きられないだろう。
「はいはい。起きられるといいね。」
「また、流された…」
「ゆう、ゆあ、ご飯だよー!」
母の声が聞こえる。
『はーい!』
二人で返事をして、俺は洗面所を経由して、食卓へ向かう。
単身赴任中の父を除く、家族四人で食卓を囲む。
「行ってきまーす」
十分前に家を出た母に次ぎ、俺は支度を済ませて玄関へ。
『行ってらっしゃい!』
居間から聞こえる二つの声を聞いて、家を出る。