少女の足は止まらなかった。

彼の後を追うことで、自分はどす黒い何かを抱え込むと
わかっているのに。

彼を追わずには居られなかった。

線路上の架線が太陽と、赤く染まった空を真っ二つに引き裂いていた。

人気の無い角を曲がる彼、焦りと不安が少女の足を自然と速くさせた。

角に隠れ、先を覗こうとした。

しかし、あと一歩。もう少しの勇気が足りない。

この先は自分が足を踏み入れてもいいところなのか。

少女は恐怖した。子供の自分を大人にしてくれる彼は、私のダァリンはこの先に居るのだろうか。

ダァリン。その名を浮かべたときに、彼女の中の彼への信頼が不安を上回った。

ビルの陰に隠れつつ、角の先を覗きこむ。

瞬間、少女の心は後悔と悲しみと更なる愛が混沌を作り始めた。

一緒に居るのは誰。

距離が開いていても分かる。彼はその女を愛していた。

以前の少女と同じ…いや、それ以上の愛情が彼とその女の間にはあった。

知りたくはない現実を、立ち入ってはいけない真実を少女は目にした。

こんなにも愛しているのに、こんなにも想っているのに。

後悔と悲しみと愛が混ざった混沌は、抑制する暇を与えず恨みの塊へと姿を変える。

真実を知る前に感じた、どす黒い何かを背負うという危機感。

今の少女にそんなもの必要なかった。

今はただ、ダァリンを奪った見知らぬ女が憎たらしい。

ダァリンを取り返さなきゃ。ダァリンを盗られてはいけない。ダァリン、ダァリン!

少女は目つきを変えて、二人の笑う姿を見た。

女は建物の中に消えた。ダァリンがこちらに歩いてくる。

彼に走りより、その勢いのまま押し倒す。

「うわっ!」

路上で彼の上に跨る。いつもの愛し合うときの格好。

「痛ってぇ・・・」

後頭部を押えて、ダァリンが悶絶する。

私しか見ていない表情。そう思うと、無性に嬉しくなった。

「ねぇダァリン、私のこと愛してる?」