街。

彼女は幸せだった。

何も知らない自分を愛してくれる彼が居たから。

「愛してるよ」

彼はいつもそう言ってくれる。

「私もだよ、ダァリン」

にこやかに少女はそう返した。

「やめろって言ってるだろ、ダァリンなんて恥ずかしい」

彼はそう言いながらも、心がこそばゆく悪い気はしなかった。

二人は幸せなはずだった。

少女のお腹には新しい命も宿っていた。

しかし、いつからだろうか、彼から何も感じられなくなったのは。

彼はいつもどおりの笑顔だ。

その声が、唇が、歯が、吐息が全て愛しいのに
彼はもう、少女を見てはいなかった。

いつものように二人で愛し合い、別れを惜しみながら駅へ向かう。

違う。何かが違う。

未発達の少女でも分かるほど、彼が纏っている空気は変わっていた。

駅の改札前

「また来週の今日、迎えに来るよ」

「うん・・・」

淡い口づけで別れの挨拶をした。

短く、緩やかな時間が終わり少女は陶酔する。

彼は、少女の頭を撫でてくすくす笑うと

後ろを向いて去って行った。

違和感。そして既視感。

知らぬうちに、少女はダァリンを追っていた。