猫のような女だ。

指先まで男を誘うための色気に満ちている。

「・・・」

「この駅に居るんならあなたも同じね」

答えずにいると、女は勝手に話を進める。

「早めに電車に乗っちゃうほうがいいわ。どうせ戻れないんだから」

この人は何を言っているんだろう。腐りかけた駅の片隅で、少女は思った。

手首に巻いた包帯に滲んだ血が、今までの自分を思い出させる。

「まもなく電車が参ります。白線の内側までお下がりください」

もう一度ひしゃげた声が響いた。だが、少女は動かない。

「ほら、お下がりよ」

女が少女の左手を強く引っ張った。

そのせいで、少しだけ傷が開き、血が零れだす。

電車のドアが開き、少女と女が乗り込む。

薄暗い車内。

包帯から滲み出る血が小指を伝う。

ソレを舐めると、生臭い錆びた鉄の味がした。

「まもなく・・・・・」

駅に着くようだ。

外の景色なんて見ていなかった。

騒がしい音をたててドアが開く。

顔を上げて進む先を見ると、見覚えのある背中が遠くを歩いていた。

少女は目を見開き、今までとは違う意味で異常さを称えた。

その背中目掛けて全力で走った。

コレまでに無いほど、スカートが翻ることなど気にもせず。

改札に切符を置く動作すらもどかしい。

「~・・・」

呼んでいる。声が聞こえる。そんな気がした。